第31話
自己嫌悪に陥っていると、俯いている私の両頬を挟んで、そのままくいっと上に持ち上げられる。目の前にいるのは、帽子を深くかぶった、お仕着せを着たシエル様。
その強い光を帯びた瞳が、私を射抜いた。
「――胸を張りなさい」
「!」
「どんな理由があるにせよ、己が己を貶めていてはいけないわ。そんなことをし続けていても、あなたは救われない。それに、あなたを好いている人間まで貶める気なの?」
「私を、好きだと言ってくれる人なんて……」
「そう、そこからなの。では言うわ。私はあなたが好きよ」
「……ご冗談を」
「受け止め方はあなた次第だもの。強要はしないわ。けれど、考えてみて。もし本当に私があなたを好きだった場合をよ? 私は、自分自身を貶め、貶しているあなた本人を好いているのよ。滑稽だと思わない?」
「………」
それは、確かにそうなのだと思う。
私は自分に価値がないと決めつけているのに、その価値のない私に対して好意を向けてくれている人の気持ちは、どこに行くのだろう。
すり抜けて、彷徨って、それでも探して。
その『好き』が永遠に続くのならば、根気よく待って、見つけ出せばいい。けれど、現実はそう言うわけにはいかない。
気持ちや思いは、限界があるのだ。
ずっと持ち続けるには、体力も気力もいる。
いい感情も、もちろん、悪い感情だったそうだ。
私は、その滅多に受け取れないいい感情を、ドブに捨てているのと同じ行動をしているのだ。
「あなたの気持ちはあなただけのもの。それはわかっているわ。理解もしている。けれど、あなたがあなたを嫌わないであげて欲しいの。己を否定し続けていては、あなた自身の生きる気力も無くなっていくわ。そんなの、許せないもの」
「……シエル様……」
「人はね、この世に生まれ落ちた瞬間から、誰かに愛される運命を背負っているのよ。自分を産み落としてくれた両親。もしかしたらいるかもそれない姉や兄、弟や妹。それに、全くの赤の他人である異性。全然知らない近所の人たちかもしれない。そうやって、知らないうちに与えられている愛情に、私たちは守られ、守っているのよ」
そんなことを、考えたことがなかった。
愛することが、守られているなんて。
愛することが、守るなんて。
――そんなこと、考えたこともなかった。
「……私、は…、」
「今すぐ理解しろなんて言わないわ。むしろ、今は頭パンクしそうでしょう。あまり深く考えないで。それよりも、アレク、まだなの? 本当に再起不能にするわよ」
「理不尽だ!!」
シエル様のその言葉に、アレク様が慌てた方をあげたのを聞いて、私はなぜか、心の奥が暖かくなったのを自覚した。
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