第22話




 あの日から、とりあえずは何もない日々が続いていた。


 変わったことといえば、私のところに、あの二人が通わなくなったという現実だけ。


 それに対して、私は自分でも驚くほどに気落ちしているのを自覚する。



(……なにを、期待していたんだろう……)



 フルールのあの失礼極まりない態度を自分のせいにしてくれと言って、それを受け入れてくれた二人が、私のところに来てくれるはずがないのに。


 それでも。



(それでも…あの二人なら、変わらないと思っていたのも……事実だわ)



 もし、あの二人が私の秘密を知ったとしても、そんなものは関係ないと言ってくれると思っていたのだ。そして、変わらずに来てくれるのだと思いこんでいた。


 そんなはずがないのに。それなのに、私はどこかでそんな期待をしていたのだ。



(ほんと……バカみたい……)



 胸が痛い。


 どうしてこんなにも痛みを訴えてくるのだろう。


 彼らと過ごしたのはほんの数日間だった。


 それなのに。



『ほら、転んでしまわないように手をつなごう』


『君はよく図書室に来るのかい? 色々な本の内容を把握しているんだね』


『今日は庭の方へ行こうか。天気もいいし、散歩するのに最高の日和だから』


『あれ、もしかして量が多かったのかい? なら、私が代わりに食べてあげるよ』


『木陰でこうやって涼んでいるのも、乙なものだよね。とても気持ちがいい』



 思い出すのは、たったの三日間で、彼が私にかけてくれた、優しい言葉の数々。


 私の手を引いて。私の体調を気遣って。私の機嫌を伺って。


 何度も何度も、“妹”であるフルールと仲良くなった方がいいと言ったのに、彼はそれを笑ってかわして、私のそばにいてくれたのだ。


 だからこそ。



(側に……ずっと側にいてくれるんだと、勘違いしてしまったのよ……)



 誰のせいでもない。勝手に期待して、勝手に裏切られたと感じている私が悪いのに。



(裏切られたなんて感じている私が、嫌い……っ!)



 離れの塔。誰も近づくことのない、忘れられた王族が幽閉される場所。


 たった三日間の奇跡に、期待しすぎた私は、誰にも聞かれないことをいいことに、大声をあげて泣く。


 この不毛な気持ちを浄化させるために。


 向けてはならない感情を、“妹”に、あの二人に、向けないように。


 こんな綺麗ではない感情に蓋をして。


 二度と期待しないように、自分に言い聞かせて。



 ――そうして、私は己の心を閉じなければならないのだ。

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