第21話

焦りを覚えながらも、私は“妹”の説得を試みるけれど、なかなか聞き入れてくれない。


 ここで押し問答のようなことをしても、仕方がないと判断した私は、あとでどれほどの折檻を受けるとしても、二国を敵に回すよりはましだと考えて、“妹”から視線を外し、マリンフォレス様とジュード様に思い切り頭を下げた。


 下げる瞬間にジュード様がかけくれた上着をきちんと取り、それを両腕で抱えるのを忘れずに。



「申し訳ご様いません、ジュード様……! どうか、お許しいただけないでしょうか……っ」


「何をしているの!?」


「この無礼は、私が被ります。フルールは何も言っておりません。私があなた様に暴言を吐いた。そのようにしてください……っ!」


「はぁっ!? わたくしのどこに暴言があったのよ!?」


「フルール、可愛いフルール。お願い、ほんの少しでいいの。ここは私に任せて」



 なんとか懇願をするように言葉を発すれば、私があの子にすがりついたという事実に少し気を良くしたのか黙ってくれる。その瞳には、明らかな怒りとともに、私に対する愉悦と侮蔑が浮かんでいるけれどそんな事はもう気にしていられない。


 なんとしても、マリンフォレスとロトメールを敵に回さないように立ち回らなければならないのだ。


 私はもう一度、ジュード様に顔を向けて深々と頭を下げた。



「この通りでございます。どうか……どうかお許しください……っ」



 王族で、しかもこのフロル国の第一王女という肩書きを持っている私が安易に頭を下げるのはあまりよろしくない事はわかっている。けれど、私にできるのはこの肩書きをかなぐり捨ててでもこの国を守らなければという思いだけだ。



「…………なるほど、ね」



 そう、ゆったりと言葉を吐き出したのは、ジュード様ではなく、マリンフォレス様。


 その声音の冷たさに、私はゾッとした。


 思わず勢いよく顔を上げて、マリンフォレス様を見つめる。彼は、真っ直ぐに私の“妹”を見つめている。


 そう、私が恐怖しか覚えない、あの権力者の瞳で。


 冷たい殺意のこもった瞳で見つめられているにもかかわらず、私の“妹”は、マリンフォレス様に見つめられているという事実にうっとりとした表情をしている。それが、私にさらなる恐怖を植え付けてくる。


 気づいてと。


 彼のその瞳は、あなたに恋い焦がれているわけではないのよ、と。


 それは、断罪を決めたものの瞳。


 それは、軽蔑の瞳。


 それは、人を切り捨てることを決めた瞳。



 それは、両親が私に向けている瞳と、全く同じなのだと。

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