第20話
それが、人肌の温もりがまだあることに気づき、瞬間的に今私が頭から被っているものがつい先ほどまでジュード様が身につけていた上着だということに気づく。
「……っ!?」
「こうすれば、姫の綺麗な肌を守ることができますね」
にこりと微笑んで、ジュード様はさらりとそんなことを言ってのける。
「ジュード!? なんでお姉様なんかに!?」
「なぜと言われましても。俺は俺の主人であるマレ様の気持ちに答えるだけですから」
「ならばわたくしの側に侍るのが当然のことでしょうっ!?」
「……っ、フルール、なんということを言うの!?」
「お姉様は黙っていてよ!! わたくしは、マレ様の婚約者なの! マレ様の婚約者であるわたくしが、ジュードをどう扱おうが勝手でしょう!?」
私は、自分の顔から血の気が引くのを自覚した。こんな小国の人間が、マリンフォレスという大国の王太子の従者である彼を好きにできるはずがない。
たとえ婚約者と言えども、それは人権を無視する行いだ。従者と言えども道具ではない。心を持ち、感情をその身に宿す人である事は当たり前のことなのに。
「フルール、謝りなさい。ジュード様に失礼なことを言わないで」
「わたくしに指図するなんて、いつからそんなに偉くなったの?」
「指図ではないわ。これは、当たり前のことよ」
「なによ、わたくしは美しいの。わたくしは可愛いの! あんたなんかとは違う存在なのよ! 地味でパッとしないあんたが婚約も結婚もできないのは当たり前でしょう!」
「待って。今はそんなことを話していないわ。私は、ジュード様に対する失礼な言葉を謝って欲しいと言ったのよ」
「意味がわからないわ。わたくしはみんなに愛されているの」
「フルール……あなたが愛されているのは知っているわ。あなたが可愛いのも美しいのも知っている。けれど、それとこれは別物よ。ジュード様は道具などではなく、その能力を買われて、マリンフォレスの王太子である彼の従者になった優秀な方なの。そんな方にあなたはとても失礼なことを言ったのよ」
なんとかなだめて、なんとか彼を怒らせないようにしなければ。
こんな小国がマリンフォレスという大国に喧嘩を売って生き残れるはずがない。
それに、彼らはかの最大国家であるロトメールとも友交を築いている。マリンフォレスを怒らせるという事は、その背後にあるロトメールをも敵に回すと同義なのだ。そんな最大国家と、大国である二国を敵に回して生き残れるほど、このフロル国は強くない。
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