第18話

もちろん、言葉に嘘はないけれど、綺麗な言葉で飾っている自覚があったので、その後ろめたさはある。


 けれど、ここ数日、彼らは私のそばにいてくれる事実が、私には尊すぎて、少しでも離れてくれないかと考えてしまう自分がいるのも事実だ。


 優しくされればされるほど、私は苦しくなる。辛くなる。


 彼らが事実を知った時、私のそばから離れていくその事実を、私が受け入れられるのかわからなくなってしまったのだ。


 今まで当たり前だ、仕方がないと受け入れてきたことなのに、この人たちは、私を“私”として見て、扱ってくれるからこそ、そんなくるかもしれない未来に、私が怖がっている。


 それならば自分から適度に距離を作って、踏み込まれる前に逃げて、自分を守らなければ、私が壊れてしまうと思って。



(とんだ、臆病者だわ……。私は)



 自分が傷つきたくない一心で、私は相手を傷つける。


 醜いと言われても仕方がない。


 臆病と表現されても仕方がない。


 それでも、私は私をなくしたくなくて。私が私であるという事実を消したくなくて。


 狡いと、卑怯と、臆病とわかっていても。



 ――私は“私”を守りたいの。




 思考の淵に落ちていると、二人分のため息が聞こえてきた。はっとしたら見れば、マリンフォレス様とジュード様が大きくため息をつく。


 私はさっと顔を青くする。血の気が引く。


 がばっと、私は思い切り頭を下げた。



「も、申し訳ありません……っ!!」


「え」


「なんで!?」


「私が、無礼なことをしてしまったから……っ、ですが、私の行動とこの国は切り離してお考えください! 私は、両親に見放された存在。国民に存在が知られているかも怪しいのです。ですから、どうか……っ!」



 必死だった。


 見放された私の存在のせいで、この国に何か不都合なことが起こってしまっては、私はもう生きてはいけない。


 今まで生きてこられたのは、なんとかそう言ったトラブルを回避できていたからだ。


 外に出なければトラブルなんて起こりようがない。そう、だからこそ、私は生きてこられたのだと思っている。それなのに、今ここで、マリンフォレスという大国の使者であるこの二人の機嫌を損ねて仕舞えば、国際問題になる。


 そんなおおそれた事をして仕舞えば、私は打ち首にされても文句は言えない。


 それに、私が問題を起こして仕舞えば“妹”の婚姻にも関わってきてしまう。それだけは、なんとしても避けなければ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る