第17話

「適切な距離だったよ?」


「どこがっ!?」



 すごいナイスツッコミ。


 そろ、そろ、と私は二人から距離を置こうと体を動かしていると、ジュード様と話をしているはずのマリンフォレス様に気づかれて、しっかりと手首を再び握り込まれてしまった。



「逃げないで。お姫様」


「えと……逃げて、いるわけでは……」


「では、私から離れないで」


「……ですが、あの、私は……」


「私があなたにそばにいて欲しいんだ。駄目かい?」


「で、でも、あなた様は、“妹”の婚約者になられる方で……私なんかは、手も届かない方で……」


「おっと……あなたはまだ知らないのだね。実はね、私にはきちんとした婚約者がすでに決まったんだよ」


「え?」


「ねぇ、ジュード?」


「認めない……絶対に認めない……っ!」


「現実逃避をしてもいいけれど、もう現実に決まったことなのだから早く受け入れた方がいいよ、ジュード」


「認めないーっ!」


「まったく……まだまだ子供だな、ジュードは」



 ぽんぽんとされる会話に、私はさらに困惑を隠せなくなる。


 婚約者が決まっているのなら、なおさら、私とのこの距離は駄目だろう。そう思って、私はぐいっと先ほどよりも強く抵抗をした。


 それに、マリンフォレス様が軽く目を見開く。碧眼が私を見つめた。



「……婚約者が決まったのでしたら、私との距離は適切ではありませんでしょう。お離しください」


「おっと……そう来たか……。言わなければよかったかな」



 そう言って、マリンフォレス様は意外にもすぐに手を離してくれた。私はさっと距離をとってマリンフォレス様とジュード様を見つめる。


 マリンフォレス様は相変わらず私に向けて柔らかな笑みを向けてくれていて、ジュード様はそんなマリンフォレス様を警戒しているように見える。


 その様子を見つめながら、私は少しいたたまれない気持ちでその場にいた。



「……そんなに警戒しなくても大丈夫だよ?」


「あなた、油断も隙もないですから。無理ですね」


「信用してくれてもいいと思うんだけど?」


「どの口が言ってるんですか!」



 二人が軽快に言葉を交わしているのを聴きながら、私はさらに距離を取るために、立ち上がった。それを気づいた二人が二人とも、私と同じように立ち上がる。



「……えっと、私はもう部屋に戻ろうと思っていますので……」


「まだお昼だ。一緒に食事をしようとも思っていたのに」


「それは、私ではなく“妹”として差し上げてください。あの子は、…………とても、寂しがりやなので」


「寂しがりや、ねぇ」



 何か含むような言葉に、私も困惑してしまう。

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