第13話
私が今まで迷惑をかけないようにと行動してきてことは、この人にとっては当たり前のことだと受け入れてもらえるのだろうか。
そんなことを言ってもらえたのは、初めてだ。
「……あ、の」
「?」
心臓がどくどくと音を立てるけれど、私は、言いたかった。
「…………ありがとう、ございます。ジュード様……」
「!」
感謝の言葉なんて、あまり口にする機会がなかった。それは、その機会がなかったから。
周りに流されて、周りの言葉を受け入れて、そのままに行動すればよかっただけだから。
でも。
今この瞬間は、私はこの人に対して感謝したかった。
もしかしたら、使いどころが違うのかもしれない。ジュード様は驚いたように私を見つめている。しばらく無言が続いて、私はいたたまれなくなってもう一度口を開こうとした。もちろん、感謝の言葉ではなく、謝罪の言葉を。
けれど、その前にジュード様がふっと笑みを浮かべ、私を見つめてくれる。
「…どういたしまして。お姫様」
優しく、柔らかな声で。ジュード様はそう言ってくれた。
*
離れの塔を離れて、ジュードは険しい表情のまま歩いていた。
(……なんなんだ、なんなんだ、あの扱いはっ!!)
抑えきれない憤りがそのまま表情に出てしまい、城で己に与えられている部屋まで歩いている最中にすれ違う人間すべてに恐怖されるが、そんなことは関係ない。
それよりも何よりも、彼女のあの扱い方に、彼女にあんな考え方を与えた人間に、怒りが滾って仕方がない。
少々乱暴に扉をあけて、誰も入ってくるなと言わんばかりに扉を思い切り閉める。
ジュードは自身の中で燻る怒りの消化の仕方がわからなくて、ただただ無意味だとわかっていても部屋の中をうろうろと歩きまわった。
(なぜ、あんなことになっている!? どうしてその考えになってしまったんだ!? なぜ、彼女の人間性が全否定されているっ!!)
我慢できずに、そばにあった机に拳を叩きつける。
響いた後に、少し後悔するが、それでもこの部屋に誰も入ってこれないようにするための牽制にはなったと思い、少しだけ胸がスッとする。
しばらく、そんなことを思いながら、部屋の中を改めてうろうろとしていると、扉をノックする音が響いてきた。
「ジュード、私だ」
「……マレ」
「入っても?」
「もちろんです」
そう返事をすれば、マレが扉をあけて入ってきた。そして、ジュードの様子を見て状況を把握し、ため息をつく。
ジュードは思わず彼のその行動に眉を顰めてしまったが、それが自分に向けられたため息ではないことを自覚し、マレに向かって声をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます