第11話

全く心当たりがなくて首を傾げていると、もう一度こん、と扉をノックする音が響いてきた。


 私は慌ててベットから降りて、できる範囲で身だしなみを整え、返事を返す。



「はい?」


「……すみません、俺はマレ様から言われてこちらに伺ったジュードというものですが……、入ってもよろしいですか?」


「……マリンフォレス様から? あの方の従者の方ですか?」


「そうです。ですから、怪しいものでは…………」


「えっ、あ、ごめんなさい。疑っていたわけではないのです。すみません。あ、でも扉には鍵がかかっていないのでどうぞお入りください」


「……え、鍵かかってないって……。……………………では、あの、失礼いたします」



 入ってきた人を見て、私は出来るだけ頬を上げて笑みを作って出迎えた。



「こんばんわ」


「………………こんばんわ。あの、余計なこと申し上げるのですが、流石に鍵は閉めておいたほうがよろしいですよ?」


「そうですね……。でも、閉めたくても閉められないのです」


「は?」


「あの子がいつきてもいいように、あの子が来たときにすぐにこの場に入れるように、鍵は開けておけと、両親に言われておりますので」


「……………………」



 まぁ、普通に考えておかしな状況だとは思うけれど。でもそれを守らなかった場合の方が面倒なことになると思ったので、それを実行しているだけだ。


 もしかしたらそれ自体がただの口実で、私をただ傷物にしたいだけなのかもしれないけれど。


 そう考えてしまって、私は思わず自嘲してしまった。目の前にいる人が驚いたように私を見た。



「ああ、申し訳ありません。お気になさらないでください」


「……いえ。あの」


「それで、えっと、ジュード様。マリンフォレス様からのご伝言とはなんでしょうか?」


「え?」


「え」


「伝言?」


「でも、先程マリンフォレス様から言われてこちらへ来たと……」


「俺は特に何も聞いていないのであなたが何か俺の主人に用があるのかと思っていたのですが……?」


「? なんのことでしょう……?」



 二人して困惑した表情で見つめ合う。


 目の前にいるジュード様は、マリンフォレス様よりは高くないけれど、そこそこな高身長の男性。色素の薄い金の髪に、赤みの強い紫の瞳をもつ、まだ年若い人だ。


 男性、というよりも、青年といったほうがいいかもしれない。


 目の前で唸っている彼を見て、私は思わず小さく笑ってしまった。


 それに気づいた彼が私を見て目を見開いているの見て、はっとして、私は慌てて頭を下げた。

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