第10話
彼のその表情を見て、私は顔を強張らせた。
(……権力者の、顔……っ)
冷酷といってもいいほどに、その表情は感情の乗らない笑みを乗せている。
私の、最も苦手な表情。
「そもそも、本来ならばあなたが大切にされてしかるべきなんだよ。なぜなら、この国に残り、この国を受け継ぐ伴侶を娶るのはあなたなのだから。それにもかかわらず、ここまで愛情に差があると、何かがあるのかと疑ってしまいたくなるよね?」
「……っ」
「おっと、ごめんね。君を責めているわけではないんだ。そんな顔をしないで」
握られている手を振り払いたくなるのをなんとか我慢していると、彼が私を見てそういった。私は今、どんな表情をしているのだろうか。
マリンフォレス様は、私の手をぎゅっと掴んでそのまま風を感じるように歩き出した。
揺れる金の髪が。私を見つめる碧眼が。
――全てを知ってると、いっているような気がしてならなかった。
**
ようやく夕方になって私はやっとの事でマリンフォレス様から解放された。二人でただ庭を歩いたり、図書館に行ったりして静かに過ごしていただけなのだけれど、彼と共に過ごしているからなのか、食事がいつもより凝ったものが出てきて胃もたれしそうになる。
それをなんとか食べる量を減らしつつ、加減してなんとか誤魔化していたけれど、連日そうなると流石にきつくなるもので。
「……うぅ……、胃が辛い……」
離れの棟にある部屋に戻った私は、お腹を抑えて丸くなっていた。
「いつもあんなものを食べているの? 無理、無理だわ。質素な食事でいいわ……」
一人そんなことをぶつぶつと呟いて、私はベットの上に体を沈めた。
この三日間、あの子は私の部屋に来ていない。もしかしたら私と別れた後にマリンフォレス様があの子のところに通っているのかもしれないけれど、それならそれで結構だ。
私のところにあの子が来ても、私はあの子の言葉を聞いてあげることしかできない。聞くだけでいいのなら別にいいのだが、それだけにとどまらないと少々厄介なことになるので、できるならばその厄介事を持ってくるあの子を引き止めてくれている彼に感謝したいぐらいだ。
胃が重たいの感じながら、私かベットの上で少しだけうとうととし始めた時。
――こん。
「…………?」
気のせいだろうか。今、扉をノックする音が聞こえてきた気がする。
私の部屋を訪ねる人なんてほぼ皆無だし、あの子はノックは一応形式上はするけれど、返事をする前に遠慮なく入ってくるから違う。
(………………誰?)
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