第9話
いや、そもそも、本当に両親がそれに対して納得しているのだろうか。あんなにも“妹”がこの方を気に入っていて、しかも“婚約者だ”と豪語していたのに。
私としては、マリンフォレス様のその言葉が信じられない。しかし、目の前にいる彼はただにこにこと笑っているだけで、それを問いただすことなどできるはずもなくただ流されるままに彼と共に過ごす日々が続いている。
私の隣を、私のペースでゆっくりと歩いている彼をちらりと見上げる。
(本当に物語から出てきた人みたい……)
陽の光に反射する美しい金の髪に、宝石をはめ込んだかのような碧の瞳。背も高く、多分、180センチほどはあると思う。見上げなければ彼の顔をしっかりと見つめることができないのだから。
周りに男性がいることがなかったから、からの身長が高いのかどうかはわからないけれど、それほどの高身長のくせに、見せてくれる表情のせいで年齢が全くわからないのだ。
私を見つけて駆け寄ってくるときは、本当に少年のような表情に見えるし、“妹”や他の女性をあしらう時に見せる表情は、私と同じくらいに見える。かと思えば、ただ黙って立って、にこりと微笑めば、年上の男性に見える。
一体どれほどの表情を持っているのだろうかと思うほどに、彼は様々な顔を持っている。
(……そんな人がなんで私に興味を持っているの……?)
別に美人でもないし、気がきくわけでもない。人と話すのは苦手だし、社交界にはほとんど出席もしてこなかった。デビューすらもしたかどうか怪しいくらいの時間しかその場にいなかったのに。
教養がないのは一目瞭然なのに。
いたたまれなくなって、私は思わず彼に声をかけた。
「あ、あの……」
「ん?」
「以前にも申し上げましたが、私と一緒にいても、あなた様にはなんの利益もないのです」
「そんなことないよ?」
「いえ、あの……私では、この国との橋渡しが難しくて……」
「なぜ? あなたもこの国の姫なのでしょう?」
「えっと、形式上ではそうなのかもしれませんが、両親は私をほとんど捨て置いております。衣食住は保障されておりますが、私の存在自体が煙たがられています。なので、私の言葉を聞いてくれる可能性はほとんどないのです」
「へぇ、すごい依怙贔屓しているんだね、君の両親は?」
「仕方がありません。“妹”は可愛いですから」
「…………そんなくだらない理由で外交が滞ってしまっては、この国は終わりだろうね?」
すうっ、と背筋に氷塊が落ちたような感覚に、私はばっと彼を見上げる。
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