第8話
確かに、妹をひたすらに可愛がっている両親が彼女を他国に嫁がせるとは思えない。
(……結局、私が厄介払いされるのね……)
ある日突然、お前の婚姻が決まったと言われても、私は受け入れられるだろうか。自分よりかなり年上の人に嫁がされることになるかもしれない。確かに、国のためには必要なことなのかもしれないけれど、私はそれを本当に素直に受け入れることができるだろうか。
考えれば考えるほど、きっとできないだろうなと思ってしまう。
勝手に一人で考え込んで、勝手に一人で落ち込んでしまった私に、マリンフォレス様は、少しだけ笑みをこぼして、自然な形で私の手を握りしめた。
「きゃっ、あ、あの、マリンフォレス様っ!?」
「あなたは己の価値をわかっていない。だから、私が“それ”を自覚させてあげるよ!」
そう言って、マリンフォレス様は私の手を引っ張ったかと思うと、私の体を抱き上げてしまった。
突然視線が高くなったことに驚いて、そばにある彼にしがみついて仕舞えば、それに対して彼が嬉しそうに微笑んでくる。
抱き上げられているたくましい腕に座らされる形にされれば、私の視線はマリンフォレス様よりも高い位置に来て、彼を見下ろす形になる。
異性を見下ろすという、普段は絶対ない状況に顔が赤くなっているのを見られてさらに恥ずかしくなる。
そんな私を見て、マリンフォレス様はふわりと優しく笑って一言。
「可愛い」
いたたまれない気持ちになったのはどのくらいぶりなのかわからないけれど、ほんの少しだけ、私の気持ちが軽くなったのを、私は後々自覚するのだった。
**
マリンフォレス様は、このフロル国に初めから長期滞在をする予定だったらしく、すでにあの日から三日目になるにもかからず、私を見つけては一目散に近づいてくる。
まるで子犬のようなその様子に、私はこの人の年齢は一体幾つなんだろうとふと思った。
(……とても私と同じ歳や、年上には見えないのだけれど……。もしかして、フルールと同じくらいなのかしら?)
そうだとすると、私はそこそこな年上になる。
彼は、そのことを自覚しているのだろうか……。と不安に思っていると、気づけばすぐそばにマリンフォレス様が来ていて、私の手をすくうように握りしめてきた。
「さて、姫君、今日も散歩に行こう」
「……あの、私ではなく妹と……」
「挨拶はきちんと伺っているよ?」
「いえ、そういうことではなくて……」
「それに、私は君のご両親にきちんと許可を取って君と共に過ごしているんだから、文句を言われる筋合いはないさ」
私の反論を封じて、彼がにっこりと微笑む。
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