第7話
何を言われたのかわからなくて――否、分かりたくなくて、私は愕然として相手を凝視してしまう。この人は今、何を言ったのだろう。
いま、惹かれたとか、伴侶になって欲しいとか。いやいや、そんな事はあり得ない。この国――フロル国は、国自体は小さいけれど、薬草栽培が盛んで、それらで国益を得ているのだ。
そう言った薬草などを手に入れたいという場合、両親にもすでに捨て置かれている私と婚約・結婚するよりも、“妹”であるフルールと婚約・結婚した方が確実にいいに決まっている。
幸いと言っていいのかわからないけれど、この国には一応私が残る。彼がこちらの国に嫁いでくる必要もなければ、フルールもこの小さな国から出て彼の国であるマリンフォレスに移り住むことになるのだから、フルールがそれを逃すはずがない。
それに、彼女は他人と話すことがとても得意なのだから、こんな明らかに他人と話すことが苦手ですという私ではなく、それこそフルールを選ぶべきだろう。
だからこそ、私は言葉にした。
「……あの、マリンフォレス様、」
「マレ」
「え?」
「マレと呼んでください、姫君」
「…………聞かなかったことにいたします。マリンフォレス様」
「何故?」
「……それは、あなたの大切なお名前でしょう。私ごときが軽々しく呼べるお名前ではありませんわ」
「けれど、あなたの妹は私の名をすぐに呼んだけれど?」
「……それは、その…大変申し訳ありません。両親が、きっとあの子を甘やかしすぎたのでしょう。今度両親から言ってもらうように進言しておきます」
「………………」
「それでですね、えっと、私と婚姻を結んだとしても、あなた様には何もいいことなどありません。私はあまり両親には気にかけてもらえていない存在なので、教養もありませんし、知らない方とお話しするのも得意ではありません。フロル国の薬草が目的なのだとしたら、私ではなく、妹と共になった方が良いと思います」
「ふぅーん?」
「あの、そんな聴き流さないでください……。あの、妹と共になっと方が、フロル国との結びつきは強くなると思いますし……その、私は一応、この国の第一王女ですので、他国に嫁ぐことができないのです。あなたはマリンフォレスの王太子さまです。あなたが他国に婿入りすることの方が不可能でしょう?」
「まあ、そうだね?」
「……あの、私の話を聞いておられますか?」
「もちろん。けれど、それは私にはあまり関係ないからね? たとえ私があなたの妹を娶ろうとしたとしても、彼女が本当にあなたの両親に愛されているのだとした、この国から出ることはできないと思うけれど?」
マリンフォレス様の言葉に、私はうぐっ、と言葉に詰まった。
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