第2話

私を覗き込んでいる“妹”は、アクアマリンのように澄んだ美しい瞳に、白金の美しく長い髪を持っている。


 きっと、十人が十人とも彼女を『美しい』と褒め称えるだろう。


 対しての私はとても地味である。


 いや、確かに珍しい色合いではあるけれど、誰もが皆恐れを抱いてしまうのだ。


 髪色はとてもくすんだ金の色合いで、瞳は赤に近い紫の色。どちらも曖昧な色合いのためなのか、一目見られたら大抵はもう一度見られる。


 父親と母親から受け継いだ色のはずなのに。どうしてこうも私は“妹”と違うのだろうかと言いたくなってしまうほど、私たちは似ていないのだ。


 妹はとても可愛い。丸い目に、すっと通った鼻筋に、美しい柳眉。体の線はとても細くて、儚げな雰囲気を醸し出しているため、『守りたい』と異性に思わせるだろう。


 対するわたしは中肉中背。顔が可愛いかと言われれば、まあ可愛い方の分類に入るんじゃないかな、程度である。別に儚げな雰囲気はないし、異性に守りたいと思わせる何かを持っているわけでもない。


 そんな私を、両親は嘆いた。


 こんな普通の娘を、他国に嫁がせることなどできないと。


 そこまで言うのか、と反論してしまいそうになったが、なんとかその言葉をぐっと飲み込み、両親の望むことをただ淡々と聞きいれてきた。


 結果、私は今年で既に19歳になってしまう。


 もちろん、婚姻などしていないし、婚約者などと言うものもいない。


 そう、私は婚約者すらも当ててもらえなかった、いわゆる残り物なのである。


 そんな私に対し、“妹”は己に『婚約者ができた』と私にわざわざ報告に来たのだ。


 これを嫌味と言わずしてなんと言うのだろうか。



「お姉様、聞いていらっしゃるの?」


「…聞いているわ。婚約おめでとう」


「まぁ、ありがとうございます! まだご自分の婚約者すらもいない中で、わたくしにお祝いのお言葉をかけてくださるなんて! お姉様はやっぱりお優しいのですね!」


「…………」



 ――ああ。逃げ出したい。いっそここから飛び降りようかしら。たとえ死んでしまったとしても、誰も悲しむ人などいない。むしろ、私という存在がいなくなって清々するだろう。


 無意識に体が窓に寄りかかってしまった。しかし、それを目ざとく見つけた妹は、私に手を伸ばし、私の手をぎゅっと握ってきた。



「……っ!!」


「お姉様、ぜひ、わたくしの結婚式には参列してくださいね? 絶対、ですよ?」



 私が逃げようとしているのを理解したのか、下から見上げる形で頼み込んでくる“妹”。



(……すごい嫌味だわ……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る