邪魔者、それは私の代名詞

第1話

どれほど願っても。


 どれほど手を伸ばしても。


 私を受け入れてくれる人なんて、居ないと思っていた。




**



 窓辺からの光を見つめて、ぼうっとしていれば、突然にドタバタと足音がして私ははっとしたように体を揺らす。


 このままここにいれば、私はまた傷ついてしまう。はやく逃げなければ。


 そのことばかりを考えていて、周りを見る余裕なんてどこにもなかった。窓枠に手をかけて飛び降りようとしてから、ここがとても高い塔の上だということを思い出す。



(……そうだ。あまりにも私が脱走するから、ここに移されたんだった……!)



 そうこうしているうちに、部屋の扉が思い切り開いてしまう。そこに立っていたのは、私の美しい妹。



「あら、お姉様? そんなところに手をかけて、一体何をしていらっしゃるのかしら?」


「…………」


「まさか、また脱走しようなどと愚かなことを考えていたわけではありませんわよね? まさか、わたくしの姉であるあなたがそんな野蛮なことをするはずがありませんよねぇ?」



 こてりと首をかしげるようにして、ゆっくりと微笑んでいる私の“妹”の瞳には、明らかに侮蔑の感情が込められていて、思わず目を背ける。それに気分を良くしたのか、“妹”がつかつかとヒールを鳴らしてそばに寄ってきた。


 その手には、精緻な扇が握られている。



「お姉様? そろそろ諦めてはいかがかしら?」



 まるで、私に言い聞かせるかのように、“妹”が私を下から覗き込む。


 その姿や仕草さえも、きっと愛らしいと表現されるのだろう。


 けれど、私にはとてもそうは見えなかった。



「お姉様、わたくし、そろそろ婚約をいたしますの! お相手は、あの有名な隣国の王子様ですのよ! 素晴らしいと思いませんか?」


「……ええ」


「もちろん、お姉様も祝福してくださるでしょう?わたくし、お姉まさにも喜んでほしいわ!」



 “妹” は既に15歳。むしろこの年まで婚約者がいなかったことが不思議なくらいである。


 それに、隣国の王子といえば、とても見目麗しいと評判の方だろうか。まるで物語から抜け出たかのような金髪碧眼だと噂で聞いたことがある。


 羨ましい、と思えればいいのだろうが、私はあまりそうは思えない。それは相手が悪いというわけではなく、自分がその人を見ることが恐れ多いから。


 そう。私の目の前にいる“妹”は自信家で、少し高飛車でわがままな部分もあるが、それをカバーできるほどの美しさを併せ持っている。


 ――私とは、正反対なのだ。

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