第3話

何が悲しくて、自分よりも先に“妹”の婚姻を見なければならないのか。



(……どうして、この子は私をこんなにも敵視しているの……? 私は…何もしていないはずなのに……)



 わからない。何もわからない。


 ――心が悲鳴をあげる。


 誰でもいいから助けてと。


 ――心が悲鳴をあげる。


 誰でもいいから救い出してと。


 ――声を上げたいのに、上げられないこの現実から。



 ――私を、助けてと。




**



 ため息をつく。やっとの事で“妹”がこの部屋から出たのだ。大きくため息をついて、私は窓辺に寄せていた椅子の上で、体を丸めるように座った。


 当たり前だけれど、このような姿は誰にも見せられない。見せられるはずがない。けれど、私はそれをすることに抵抗がなくなるほどほったらかしにされているのだ。



(……あの子が婚約するということは、私は本当に必要がなくなる……それとも、私にはやくここから出て行けという遠回しの催促?)



 それならば、もういっそのこと森の中にでも捨てて仕舞えばいいのに。そうすれば、私はなす術もなく野生の動物に襲われて死ぬことができるだろう。


 それなのにそれをさせてくれないのだから、何をそんなにも大切に私という存在を囲っているのか、その理由が知りたい。



(……どうせ、大した理由などないのだろうけれど)



 もう一度ため息をついて、私は現実から目を背けるために、まだお昼前にもかかわらず眠りにつくことを決めたのだった。





**




 ――助けて。


 ああ、また。


 ――助けて、お願い。


 また、無駄なことを願っている私がいる。


 ――助けて。


 ダメよ。手を伸ばしても、私は誰にもその手を掴んでもらえる存在ではないの。


 ――誰でもいいから、私を助けて。


 やめて、もうやめて。私に手を伸ばす人などいないのよ。



 ――たす、けて。



 もう、やめてよ……っ!




**



「……っ!」



 目が覚めて、私は自分が全身に汗をかいていることを自覚した。



(……まだ、あんな願望を持っている自分がいたんだ……)



 自分が嫌になってしまう。もう、望んでも仕方がないのに。


 言い聞かせる。


 求めるな。


 手を伸ばすな。


 縋りつこうとするな。



 ――それをしても、助けてくれる手なんて、存在しないのだから。



 大きく息を吸って、吐く。ベッドから起き上がって、私はもう一度窓辺に寄った。あまり眠っていなかったのか、日の位置はまだ高い。


 こうして、日がな一日、私は空を見上げて終わることがほとんどだ。けれど、それでいいと思っている。


 空は、私のこの醜い感情すらも、包み込んでくれる気がしているから。

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