第91話

「「サクラ」」


「……っ!」


「「ボク達、ちゃんとサクラが好きだよ」」


「え、……」


「ボク達、最初にサクラのことを拒絶した」


「人間だから。人間は、嫌いだから」


「その気持ちは、今でも変わらない」


「人間はとても汚い」


「自分の欲望に忠実で、他を考えない、低脳な生き物」


「だから、同じ人間であるサクラも、大嫌いだった」



 レプレとレプスが、交互に言葉を発して白紅麗に訴えかける。その思いもよらない言葉と、内容に、白紅麗は驚きを隠せなくて、その藤色の瞳を見開いた。



「サクラのその髪色も、瞳の色も、最初は本当に気持ち悪いと思ったんだ」



 レプレの言葉に、白紅麗は胸を抉られる。どう反応すればいいのか分からなくて、白紅麗はただじっとその言葉に耳を傾けて、双子を見つめ続けるしかできなかった。


 この後にも、どれほどの罵詈雑言が飛んでくるのかと、ビクビクとしてしまう。


 しかし。



「……でもね」



 レプスが、優しい声で、まるで白紅麗に言い聞かせるように。そう、言葉を紡いだ。



「サクラが、ボク達に言ってくれたじゃ無い?」


「庇ったわけでは無いって」


「! あれは……」


「そう言われた時にね、気づきたんだ」


「ボク達は、嫌いだ嫌いだって言っているくせに、サクラに相手にして欲しくて、ただ駄々をこねてただけなんだって」



 双子の言葉に、白紅麗は目を見開く。それは、扉付近で聞いているロシュも同じだった。


 とててっ、と双子が白紅麗に近付いて、その両手をそれぞれが取る。



「最初に会った時から、ボク達は、サクラがあったかいって分かってたんだ」


「でも、それを認めたくなかったの」


「だって、相手は人間で、ボク達をいじめていた奴。そんな奴に、ボク達が好意を持っているなんて、受け入れたくなかった」


「…………それは、間違ってない無いのよ、二人とも……」



 白紅麗は、ただ静かに、苦しそうな声で言葉を紡ぎ出す。同時に、双子から距離を取ろうとするけれど、双子がそれを許さない。


 ぎゅっと手を握って、白紅麗から離れようとしないのだ。



「「だから、サクラも怖がらないで欲しいの」」


「……っ!?」


「「ボク達は、自分がどれだけ酷いことをサクラにしたのか理解した。だから……」」


「けれど、あなた達の言ったことは間違いではないのよ……!」



 思わず、大きな声で白紅麗は双子の言葉を遮った。


 これ以上、聞いているのが怖くて、白紅麗は首を左右に振る。



「私は……醜いの。綺麗じゃないの。汚いの! だから、お願いだから……っ」



 喉が痛い。その悲鳴は、決して声を荒げているわけでもないのに、その場にいる全員の胸を打つほどに切ない声だった。

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