第90話

ぎゅっとしがみついて離れない双子に、白紅麗は戸惑いながらも、双子の頭をゆっくりと撫でる。それに気持ちよさそうにふにゃりと表情を緩める双子を見て、白紅麗もホッと息をつく。


 撫でている手をゆっくりと離そうとすると、双子がハッとしたように嫌々と言った。



「やだっ、もっと撫でて!」


「ボクも! ボクも撫でて!!」


「えっ、あの、もうそろそろ……」


「ダメ、なの……?」


「ボク達のこと、嫌い……?」


「そっ、そんなことないわ! でも、ほら、もう……」



 そう言って、白紅麗は窓の外を見る。すでに日が傾いて、窓からは赤い日差しが差し込んでいるのだ。


 どれほど長い時間をこうやって過ごしていたのかと自分でも驚くほどの時間の経過に、白紅麗は双子を見る。双子も、夕日が差し込んできていることに驚いてはいた。しかし、離れようとはしない。


 困ったなと思っていると、こん、と扉を軽く叩く音がする。


 白紅麗は身体をびくっと微かに震えさせる。その震えは、白紅麗にしがみついている双子にも伝わったようで、びっくりした表情で白紅麗を見上げた。


 白紅麗はそんな双子の反応にはっとして、なんでも無いのと告げる。


 そして、扉に向かってどうぞ、と声をかけた。


 入ってきたのは、怒った様子で出て言ってしまったロシュだ。


 白紅麗は驚きに目を見開くと同時に、今最も自分のそばにいる存在に、縋り付いてしまった。



「…サクラ?」



 レプレの不思議そうな声を聞いて、白紅麗ははっとして思わず過剰に反応してしまう。体を双子から離してしまったのだ。その行動を起こしてから白紅麗は気づき、そして慌てた。


 自分の意図しないところで体が無意識に動いてしまったのだ。しかし、たとえそうだとしても、白紅麗はしてはならないことをしたのだ。


 驚いて目を見開いている双子を見て、白紅麗のほうが泣きそうな表情を作る。



「ち、ちが、……違うの、ごめん、なさい、私は……あの、本当に、ち、が……っ」



 何を言いたいのか分からなくなって、言葉が支離滅裂になる。喉で言葉が絡まって、音となって出てきてくれない。わざとでは無いんだと言いたいのに、それを言えばまるで言い訳のように聞こえるのでは無いだろうかという不安がよぎる。


 そんな白紅麗の様子を見て、双子はお互いに顔を見合わせた。


 そして、うなずきあう。白紅麗をみる。


 麦穂色の髪は、優しく夕日の光を反射して、少しだけ赤く染まっていて、なんだか神秘的に見えた。

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