第87話

しばらくすると、レプスが桶にお湯を入れてパタパタと戻ってくる。



「お待たせー!」


「レプス、ありがと!」


「もちろん!」


「じゃあ次は、布を濡らそう!」


「絞る?」


「もちろん!」


「ボクやるー!」


「ボクもやる!」


「どうせ両方治療するんだから、二人ともできるよね」


「そうだった。布二枚ある?」


「ある!」



 双子が会話をしているのに口を挟むことができず、白紅麗はただぽかんとして双子の会話を聞いていた。


 双子は、それぞれの小さな手に布を持ち、それにお湯で湿らせてぎゅーっと絞る。絞った布を広げて少しだけ水をはけさせてから綺麗にたたみ、そのまま白紅麗の方へとにじり寄ってくる。


 座ったまま移動するものだから、とても動きづらそうであったが、特に何も言うことなく、白紅麗は双子の好きにさせていた。


 双子は、白紅麗の怪我をゆっくりと拭いながら、白紅麗に話しかけた。



「サクラ、サクラ!」


「えっ、あ、なんですか?」


「……その喋り方……いや!」


「えっ、と……ですが……」


「ボクたちの方が見た目では明らかに年下なんだし、敬語いらない!」


「いらない!」


「だよね、レプス!」


「そうだよ、レプレ!」



 双子はそう言って一度お互いに顔を合わせたかと思ったら、今度は同時に白紅麗を見上げる。


 赤の二対の瞳が白紅麗を射抜く。


 うっと言葉に詰まりながら、それでも白紅麗は了承の返事ができない。


 しかし、双子のうるうるとした瞳を見ていれば意思も揺らぐというもの。見続けてはいけないと思い、そっと視線を晒せば今度は愛らしい声で名前を呼ばれる。



「「サクラぁ……」」


「うっ…………」


「「ダメ……? どうしても、ダメ……?」」


「…………うぅ……」



 なんの修行をさせられているのかと思うほどの誘惑。いつもは少しだけつり目の大きな真っ赤な瞳が、今は少し潤み、眉を八の字に下げて上目遣いで見つめてくる。


 しばらく、よくわからない睨めっこが続いたけれど、結局、白紅麗が負けてしまった。



「……分かりました……、私の負けです……」



 そう言って、白紅麗は双子をまっすぐに見つめる。藤色の瞳は、まだ戸惑いを含んでいるけれど、それでも優しい光を宿しているのが見て取れる。


 双子は嬉しそうに声を上げる。その様子を見ながら、白紅麗は一瞬、白雪姫のことを思い出してしまい、気持ちが沈みそうになるのを首を振って振り切る。


 と、なぜか双子がずいっと頭を突き出してきた。



「……えっと、どかしまし……どうかしたの?」



 白紅麗の疑問に、双子が首をかしげる。


 その様子に、双子も首を傾げた。

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