第86話
双子のレプレとレプスは、そんなロシュの後ろ姿を見ておろおろとしている。追いかけようか、それとも止まるか。しかし、自分たちは白紅麗の怪我の治療をしにきたんだと言い聞かせて思い切って部屋の中に入る。
「……あ、あの」
「怪我の、治療に、きたの……」
おずおずと言葉を紡ぎ出す二人に、しかし白紅麗は無表情で見つめる。
その反応に怖気付きながらも、双子は懸命に言葉を紡ぎ出した。
「「……そばに、行ってもいい……?」」
その言葉に、白紅麗は驚きを隠せなかった。藤色の瞳を見開いて、双子を見つめる。
双子は、白紅麗からの返事を待ってその場でずっと立っている。去る気配は全くない。
白紅麗は、大きく戸惑いながらも、二人からの敵意がないことに不思議さを感じながら。
小さく、頷くことしかできなかった。
白紅麗のその小さな頷きを見て、双子はとても嬉しそうに笑顔を作る。それにも驚いて白紅麗は思わず双子をじっと見つめてしまう。
しかし双子はそのまま嬉しそうに白紅麗に小走りで駆け寄り、小さな体をかがめて白紅麗の足を治療するために、衣をきゅっと掴んでたくし上げた。
「うわっ、…………痛そう……」
「血が出てる……早く拭かないと!」
「布は?」
「もってる!」
「お湯は?」
「流石にないから、お部屋の浴場でとってこようと思って」
「なら、先にそれを用意しなきゃだね!」
「うん、あ、ボクが行ってくる!」
「ありがと、レプレ」
「もちろんだよ、レプス!」
双子の会話を聞きながら、白紅麗は自分はどうすればいいのかと思い、身を少しだけ動かす。すると、それに気づいた双子の片割れ――白い髪を持ったレプレが白紅麗を見上げて声をかける。
「動いちゃダメだよ! 大人しくしてて!!」
「ご、ごめんなさい……」
「ほら、レプス! 早く!」
「わかったー!」
そう言って元気よく返事をしてパタパタと浴場に走り去っていった双子の片割れの、黒髪のレプスが浴場へと消えて行く。
その様子を未だ呆然としながら見つめていると、レプレが声をかけてきた。
「……あの、サクラ」
「えっ、あ、な、何ですか……?」
「痛い?」
「……いえ、痛みはほとんどありませんが……」
「本当に? 我慢してない?」
「え、ええ、本当です。見た目ほど深い傷はないので……」
「……なら、いいんだけど」
「……?」
なんだか、少し納得のいかないような声だった気がしが、あまり突っ込んで聞くことも憚られるため、白紅麗はそのまま無言になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます