第78話

白紅麗の足元を飛び回っていたウサギたちも、今は動きを止めて白紅麗を見つめている。真っ赤な瞳は、なぜか泣きそうに見えた。


 ロシュが白紅麗に手を伸ばして触れようとする。けれど、その時、感じ慣れた気配を察知して、ロシュは苦笑しながら伸ばした手を下ろした。



「君は、自分を追い詰めすぎるね」



 そういうと、ロシュは白紅麗のそばでうずくまるようにしているウサギたちに手を伸ばして、二匹とも抱き上げた。


 二匹は、大人しくロシュの腕の中に収まっている。



「白紅麗」



 ロシュの行動に首を傾げながら、白紅麗は呼びかけられたためにロシュに視線を投げる。


 同じ目線の少年は、なぜか、自分よりもよっぽど年上に見えた。



「白紅麗、いろいろなことに触れて。君は、まだまだ小さな世界に閉じこもってる。そこから一歩踏み出せていない。だから、そんな風に自分を追い詰めてしまうんだよ。手を伸ばして。伸ばされる手を、ちゃんと掴んで。俺も、あの人も、君を拒絶しないから」



 そう言って、ロシュはその場から離れていく。


 その場にポツリと残された白紅麗は、どうすればいいのか分からなくて、呆然とする。


 どんどん離れていくその背中を見て、引き止めたいと思っても、声が喉に絡まって出てこない。何度も経験したことのあることだ。


 声をあげていいのか分からなくて、白紅麗は結局諦めてしまう。


 それが、白紅麗にとっての当たり前だったのだ。


 だから。


 今この瞬間も。


 白紅麗は声を上げることを諦めたのだ。



 ――けれど。



 後ろから、体を抱きしめるたくましい腕が伸びてきた。優しい抱擁に、白紅麗は目を見開く。



「――諦めることを、当たり前だと認識するな、白紅麗」



 そう、背後から声が聞こえてきた。



「……リアム、様……?」



 この場にいないはずの人物に、白紅麗は大きく戸惑う。意図せぬところでリアムを怒らせたと思っていた白紅麗は、本人の登場に頭を混乱させる。


 小さな声で、「どうしてここに……」と呟く。



「ロシュの気配も、君の気配も、屋敷から遠ざかっていくから、少しだけ焦った……。嫌になったのかと……」


「なぜ……私があなたを遠ざけるのですか……」


「……なんでだろうね。でもなぜか、そう思ったんだ」


「不思議な方ですね、リアム様は……」



 ふっと、体から力が抜けたのが自分でもわかった。それを感じ取ったのか、リアムの腕からもほんの少しだけ力が抜けた。

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