第77話





 白紅麗はロシュとともに屋敷の外に出ていた。


 広大な大地。髪をさらう優しい風。近い空。


 見上げれば太陽が刺すほどに眩しくて、手で日陰を作って見上げる。


 驚くほどの青さの空を見つめながら、白紅麗は足を止めた。



「……白紅麗?」


「……空は、大きいですね」


「そうだね。空は広大で、とても寛大だよ」


「空が、寛大……」



 ロシュの言葉を繰り返して、白紅麗は視線下に下げる。地面を見つめれば、そこには短い草が生えていて、連れてきた二匹のウサギたちは嬉しそうに飛び跳ねている。といっても、やはり白紅麗のそばからあまり離れないようにしているのか、その近辺でということになるのだが。


 そんな二匹を見つめながら、白紅麗は微笑んだ。


 そして、言葉を切り出し。



「……ロシュ様」


「何?」


「……あの……、ありがとう、ございます」


「!」



 白紅麗の突然のその告白に、ロシュは驚きで目を見開いた。白紅麗は、見開かれた真紅の瞳を見つめながら言葉を続ける。



「私が、気負いすぎないように、私が、遠慮しすぎないように、気を配ってくださったんですよね……?」


「……どうして、そう思うの?」


「この一月の間、ほとんど接点がなかったからです」


「それだと、逆に君に対して興味がないと思われると思うんだけど?」


「普通はそうかもしれません。ですが、私は気を使っていただいたのだと思います。…………私が、警戒を解けなかったから」


「………………」


「私のせいで、息苦しいと感じられる時もあったと思います。もちろん、リアム様も」


「そんなことはないよ」



 すぐに言葉を否定するロシュに、白紅麗はそれでも緩く首を左右に振った。



「気を遣わせるのは、それだけ相手に精神的に負担をかけることなんです。相手のことを思うからこそ、己が神経質になってしまうこともあります。…………それが過ぎれば、私のように、依存してしまう」


「……」



 白紅麗の言葉を聞いて、ロシュはハッとする。


 白紅麗は、それを実際に敬遠しているからこそ、そうやっていっているのだろう。


 黙してしまうのは、必然のことだった。



「……私は、私のせいで誰かに負担をかけたくないです。それは、ロシュ様もそうですし、リアム様も、そして、あの双子の子達も……。私の世話をしにきてくださった女性の竜人の方もそうです」


「それは、白紅麗が気にすることではないよ。そんなことまで、気にするべきではないよ」


「そうですね……そうなのかもしれません。ですが、どうしても、私は怖いのです」



 そう、ぽつりとこぼされた言葉が、胸に重く響いた。

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