第77話
◇
白紅麗はロシュとともに屋敷の外に出ていた。
広大な大地。髪をさらう優しい風。近い空。
見上げれば太陽が刺すほどに眩しくて、手で日陰を作って見上げる。
驚くほどの青さの空を見つめながら、白紅麗は足を止めた。
「……白紅麗?」
「……空は、大きいですね」
「そうだね。空は広大で、とても寛大だよ」
「空が、寛大……」
ロシュの言葉を繰り返して、白紅麗は視線下に下げる。地面を見つめれば、そこには短い草が生えていて、連れてきた二匹のウサギたちは嬉しそうに飛び跳ねている。といっても、やはり白紅麗のそばからあまり離れないようにしているのか、その近辺でということになるのだが。
そんな二匹を見つめながら、白紅麗は微笑んだ。
そして、言葉を切り出し。
「……ロシュ様」
「何?」
「……あの……、ありがとう、ございます」
「!」
白紅麗の突然のその告白に、ロシュは驚きで目を見開いた。白紅麗は、見開かれた真紅の瞳を見つめながら言葉を続ける。
「私が、気負いすぎないように、私が、遠慮しすぎないように、気を配ってくださったんですよね……?」
「……どうして、そう思うの?」
「この一月の間、ほとんど接点がなかったからです」
「それだと、逆に君に対して興味がないと思われると思うんだけど?」
「普通はそうかもしれません。ですが、私は気を使っていただいたのだと思います。…………私が、警戒を解けなかったから」
「………………」
「私のせいで、息苦しいと感じられる時もあったと思います。もちろん、リアム様も」
「そんなことはないよ」
すぐに言葉を否定するロシュに、白紅麗はそれでも緩く首を左右に振った。
「気を遣わせるのは、それだけ相手に精神的に負担をかけることなんです。相手のことを思うからこそ、己が神経質になってしまうこともあります。…………それが過ぎれば、私のように、依存してしまう」
「……」
白紅麗の言葉を聞いて、ロシュはハッとする。
白紅麗は、それを実際に敬遠しているからこそ、そうやっていっているのだろう。
黙してしまうのは、必然のことだった。
「……私は、私のせいで誰かに負担をかけたくないです。それは、ロシュ様もそうですし、リアム様も、そして、あの双子の子達も……。私の世話をしにきてくださった女性の竜人の方もそうです」
「それは、白紅麗が気にすることではないよ。そんなことまで、気にするべきではないよ」
「そうですね……そうなのかもしれません。ですが、どうしても、私は怖いのです」
そう、ぽつりとこぼされた言葉が、胸に重く響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます