第76話

それにホッとしていると、白紅麗が目を見開いて自分を見つめていることに気づいた。そんな表情で見つめられていることに、ロシュは驚いた。


 そして、ぱっと手を離す。



「……ごめんね、嫌だったかな?」


「…………!」


「気安く触れるべきではなかったね」


「……っ、あ、あの、違うんです!」


「白紅麗……?」



 少し大きな声でそう言われて、ロシュも少し驚いた。白紅麗は離れてしまったロシュの手を、自らの手を伸ばして掴む。その白紅麗の行動に、ロシュは今度こそ目を見開いて白紅麗を見つめてしまう。



「あの。決して、ロシュ様のことを嫌だと思ったわけではなくて、私は……、その……、えっと…………」



 必死に言葉を探して、伝えようとしてくれている白紅麗を見つめて、ロシュはふっと気持ちが柔らかくなる。


 握られているその手を握り返すと、白紅麗は驚いたように体をぴくっと動かす。しかし、拒絶の色はない。



「焦らなくてもいいよ、白紅麗」


「……!」


「ゆっくりでいいんだ。ちゃんと聞く。だから、焦らないで」


「ロシュ様……」



 白紅麗はロシュを見つめて少し恥ずかしそうに俯く。そんな白紅麗の仕草が愛らしく感じて、ロシュはふふっと小さく笑みをこぼした。


 そんな、優しく、柔らかく、甘い空間を作り出していたのだが。



「――いったぁっ!?」


「!?」



 ロシュの突然のその悲鳴で全てが吹き飛んだ。


 白紅麗は身体をびくっと跳ねさせて思わずロシュから自身の手を取り戻してしまう。同時に立ち上がった。逆にロシュは悲鳴をあげて、白紅麗の手を逃してしまった上に、その場にしゃがみこむ。


 何事が起こったのかと、あたりをキョロキョロとしている白紅麗とは違い、ロシュはただ一点――白紅麗に隠れるようにしている二匹のウサギを見た。


 二匹とも、ふしゃーっ、と威嚇するようにロシュを見ている。



「……君たち、ね……、後ろ足で、全力で、俺の脛を攻撃しないで、くれないかな……!?」



 ロシュの訴えを聞いても、二匹はぷいっ、とロシュから顔をそらすのみである。


 思わず大きなため息が出てきた。



「だ、大丈夫ですか、ロシュ様…?」



 白紅麗の気遣う声が聞こえてきて、顔を上げる。オロオロとしている白紅麗を見ると、なんだかホッとしてしまい、ロシュはニコッと微笑んだ。



「大丈夫」



 ロシュのその言葉を聞くと安心したのか、白紅麗はほっとした表情を作る。


 そして、しばらく白紅麗は、ロシュのそばにいて、その痛みが引くのを一緒に待っていた。

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