第75話

その様子を見てロシュは焦りを感じる。どうしてそんな反応をされたのかわからないから、あわあわとしてしまったのだ。


 その隙に二匹のウサギはロシュの手から流れて、そのまま下にたしっと着地すると慌てたように白紅麗の下衣にまとわりついた。


 爪を使ってくいくいっ、と引っ張る二匹のウサギに、白紅麗は少しびっくりしながらも、屈みこんで二匹を撫でる。優しい指先が体を撫でるその快感を感じながらも、それでも二匹は落ち着かなく体をぷるぷるとさせたり、やっぱり白紅麗の下衣を爪で引っ掛けたりと行動が忙しなかった。


 その様子に首をかすかに傾げつつも、白紅麗はしばらく二匹を撫で回していた。



「……白紅麗は、どうしてこの屋敷から出たいと思ったの?」



 上から、疑問が落ちてくる。白紅麗は視線を上に向ける。すると、ロシュの真紅の瞳と視線があった。



「出たいというよりも、散歩の範囲を広げたいだけなのですが……」


「…………………………えっ?」



 白紅麗のその言葉に、ロシュは気の抜けた返事をしてしまう。そんなロシュに、白紅麗も困惑の表情で見つめた。



「……そ、れだけ?」


「……はい」


「えっ、じゃあ、なんでリアム様の名前だした時にしゅんとしてたの?」


「最初に伺ったんです。ですが、ロシュ様の時と同じように切り出したら、少し雰囲気が怖くなってしまって……」


「…………」



 多分ロシュと同じ勘違いをしたのだろう。予想できる。



「声をかけようと思ったら、ロシュに聞いてくれとだけ言われて、部屋を追い出されてしまって……」


「……あー……なる、ほど……」



 その態度はいささかよろしくないのではなかろうか、と思っていると――。



「……やはり、私のようなものがここにいてはいけないのですね……。私は、美しくもありませんし、気がきくわけでもありません。お話しするのもどちらかというと苦手ですし……。申し訳ありません。もし、お気を悪くされる場合などありましたら、出て行きますので……」


「ちょ、ちょちょっ、待って! 大丈夫! そんなこと思ってないから! 追い出そうなんて思っていないから!」


「ですが……」


「リアム様は、ほら、もともと、ちょっと難しい人なんだよ、きっと!!」


「そう、なのですか……?」


「そう! そうなんです! だから、安心してここにいてもいいんだよ、白紅麗」



 安心させるために手を伸ばして、しゃがみこんでいる白紅麗の頭をゆっくりと撫でた。初めての経験だったため、上手にできているのかわからないけれど白紅麗からの拒絶は感じられない。

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