第74話

「大丈夫ですか……!?」



 中からあんな声が聞こえてきたのだ。驚いてそう声をかけるのは当たり前だろう。ロシュは背中に乗っている二匹を気にすることなく体を起こして、白紅麗のその心配そうな声に応えた。



「大丈夫。ちょっと体をぶつけただけだから」



 そう誤魔化すしかできなくて、ロシュはそういった。すると、足元にいる二匹のウサギがふすっ、といったのをロシュは聞き逃さない。


 視線を下に投げれば、二匹のウサギがそれぞれになぜか勝ち誇ったかのような態度をしている。



「……………………」



 イラァっと、なんとも言えない怒りがこみ上げてくる。思わず、無言で両手を伸ばし、遠慮容赦なく、ロシュはその二匹をつまみ上げた。


 それと同時くらいにかちゃりと扉の開く音がする。


 そちらを見れば、白紅麗がひょこりと顔をのぞかせていて、ロシュは満面の笑みで白紅麗を出迎えた。



「いらっしゃい、白紅麗」


「は、はい。あの……少し、お聞きしたいこと、が…………」


「うん、何?」


「……………………えっと、その前に」



 そう言って、白紅麗はロシュがつまみ上げているものを見て言葉を濁す。見間違いでなければ、その二匹のウサギにとても見覚えがある。



「……黒兎? 白兎?」



 白紅麗がそう呼びかければ、今までロシュにつままれた状態で暴れていた二匹のウサギがさらに暴れまわる。しかし、ロシュも離さない。


 困惑の表情で、白紅麗がウサギ達とロシュを交互に見る。



「あ、あの……」


「ああ、このウサギ達はしばらく放っておいてくれて構わないよ。お仕置き中だから」


「……お仕置き……」


「そう。イタズラがね。過ぎたから。ちゃんと“躾”をしないとでしょう?」


「……そう、ですか……?」



 物凄い笑顔で言われて仕舞えば、白紅麗もそれ以上何かを言うことを躊躇われてしまう。


 あとでたくさん撫でてあげようと心で思いながら、白紅麗はロシュに言葉を投げた。



「あの、このお屋敷から出る許可が欲しいんですけれど……」


「……………………え?」



 白紅麗の突然すぎるその言葉に、その場にいる全員が固まった。ロシュにつままれているウサギでさえも。


 しかし、白紅麗はしっかりとロシュを見つめて返事を待っている。ロシュは少し自分を落ち付けようとして深呼吸をした。


 しかし、真紅の瞳は動揺を隠すことができずにうろうろと空中を彷徨っている。



「な、なんで突然そんなことを? 第一、それは僕ではなくてリアム様に言うことだと思うんだけど」



 ロシュは出来るだけ丁寧にそう答える。しかし、リアムの名前を聞いた白紅麗はしゅんと少し落ち込んだ様子を見せた。

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