第73話

「……ちょっと、寂しくなってしまったの。大丈夫よ」



 自分の下衣にくっついている二匹にそう語りかけて、白紅麗はちょっと寂しそうな微笑みを見せた。


 それに心配そうにふすふすと鼻を鳴らす二匹に、白紅麗はもう一度笑みを浮かべて再び歩き出した。


 二匹は、それにちょこちょことついていくことしかできなかった。









 リアムの屋敷のロシュの自室にて。


 ロシュは部屋の片付けをしていた。最近サボってしまっているので、さっとやってスッキリしたい。そう思って、ほとんど無心で掃除をしていた――が。



「「ロシュの馬鹿ーっ!!」」


「うわっ!?」



 ばーんっ、と部屋の扉が開いたかと思ったら双子の大声の罵倒、さらには突撃されたことにより体の体勢を崩し、床とこんにちわをする羽目になる。


 床に伸びたロシュの上に双子は遠慮なくのしかかり、その小さな両手でばっしんばっしんとロシュの背中を叩いている。



「ちょっ、何何何!? っていうか、いたっ、痛い痛い痛いっ!?」


「ロシュが悪いんだもん!」


「悪いんだもん!!」


「何のこと!?」


「サクラを悲しませるからーっ!!」


「ロシュの馬鹿ーっ!!」


「ちょっ、ほんとに話が全くわからない! ていうか、攻撃しないでくれないか!?」


「「ロシュの馬鹿ーっ!!」」


「俺の話全く聞いてないね、君たちっ!!」



 未だに背中に乗っかってばっしんばっしんと叩きまくっている双子に、ロシュは戸惑いを大きくしながら、こうなったらこの双子が満足するまでやらせるしかないと諦めて、しばらくそのまま放置した。


 そこそこ長い時間が経ってからようやく双子は満足したのか、ロシュの背中を叩くのをやめた。


 しかし、背中から退こうとはしない。重いなと思いつつもそんなことを言えるはずもなく、ロシュはうつ伏せになったまま、双子に話しかけた。



「それで、レプレ、レプス。何だったの……?」


「サクラが悲しそうにしてたの!」


「寂しいって言ってたの!」


「ロシュがサクラと一緒にいてあげてないからだよ!」


「ロシュの馬鹿っ!!」


「…………話が全くわからないんだけど……」



 困惑を隠せなくて、ロシュは突っ伏した。双子はそれでも背中に乗ったままわいわいと騒いでいる。


 と、こん、と遠慮がちに扉を叩く音がしてロシュは反射的にはいと答えた。すると、扉の外から白紅麗の遠慮がちな声が聞こえてくる。



「あの、ロシュ様……今お時間大丈夫でしょうか……?」


「え、白紅麗? うん、平気だよ……った!?」



 白紅麗の言葉にそう答えて瞬間、ばっしんっ!! と大きな音が響き、ロシュも思わず声をあげた。何っ!? と思った瞬間に、背中にあった重みがフッと軽くなる。


 そろりと後ろを振り向いて見れば、そこには先ほどの双子の代わりに二匹のウサギがちょこんと座っている。



「………………」



 何を言えばいいのかわからなくて、とりあえず黙ってしまったのはしょうがないことだとロシュは自分に言い聞かせた。

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