第72話

「今日は、天気もいいですね。お散歩でもしてきたらどうですか?」



 そう言って、白紅麗は再び屈みこんで二匹を庭に放した。しかし、二匹とも庭を駆け回ろうとはせず、白紅麗の周りをくるくると回っているばかりである。


 その様子に白紅麗は苦笑しながら、ゆっくりと庭を歩き出す。


 綺麗に手入れされている庭は、何度見てもなかなか見慣れない。白紅麗の知っている庭とは違い、出歩いて楽しむものらしく、辺りをきょろきょろと見回しながら移動していた。


 京家の庭はどちらかというと観賞用だったため、こうやって庭に出て散歩というのはあまり慣れないでいる。


 そんな白紅麗の足元を、ピョコピョコと飛び跳ねてじゃれ合っている兎たちを見つつ、白紅麗は大きな石造りの円状のものに近づいた。真ん中でさらにひな壇のように小さな円柱のようなものがあり、そこからさらに円錐のようなものが飛び出している。


 白紅麗がさらに驚いたのは、その円錐のようなところから水が出てきていることだった。


 上に吹き出して、落ち、円柱の器になっているところにたまり、溢れた水が、一番大きなところに落ちている。


 どのような作りになっているのかわからないけれど、一番最初にそれを見た時、白紅麗は開いた口が塞がらないほどに驚いた。


 しかし、これの名称を白紅麗は未だにわからない。


 気を使ってなのか、白紅麗がこうして庭に散歩に出る時は、基本的にリアムやロシュはついてこない。代わりに、この二匹のウサギが付いてくる。


 ここ一月、白紅麗はこうやって散歩に出ても一人と二匹でただてくてくと歩いているだけだった。


 その為、珍しいものがあってもそれを聞く人がいないためただ疑問に思って終わってしまう。



(……やっぱり、私が拒絶しているのかしら……)



 最初の頃よりもそう言った警戒心などはなくなっていると思うが、それでも完全になくしたわけではないと自分でもわかっている。


 その為、一緒に散歩してほしいですとはなかなか言いにくく、結果的に一人で行動することが多くなっている。


 そういう時にふっと考えてしまうのはあきらの事だった。彼は基本白紅麗と一緒に行動してくれていた。それが白紅麗を気遣ってのことなのか、仕事だからと割り切っていたのか、監視を任されていたからなのか、それはわからないけれど、それでも共に過ごしてくれた時間はかけがえのないものであることは間違いない。


 一度立ち止まって、空気を吸う。


 白紅麗が立ち止まったのと同じように、ウサギたちも止まる。後ろ足でたち、体をぐっと伸ばして白紅麗の下衣に前足をてしっと乗せて、白紅麗を一生懸命に見上げる。

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