第68話

リアムはまた少し考える。



「……もしかして、毒が入ってるか持って疑ってるのか?」


「!!」



 その言葉に敏感に反応した白紅麗を見て、リアムは納得した。



「なるほどな」


「……あ、あの、私、やっぱり……」


「いや、こちらの配慮がなかった、すまない。確かに、よくわからないところに連れてこられたにもかかわらず、故郷の食事がこんな風に出てくれば疑うのは当たり前だ」



 真剣な表情と声音でそう言葉を紡ぎ出す彼を見て、白紅麗は驚く。そして、そんな風に疑った自分を恥ずかしくなった。


 いや、そもそも、この命はあっても仕方のないものだ。



(なにを、躊躇っているんだろう……私は)



 死ぬのが怖い? ――そんな感情を持ってはいけないと、自分に言い聞かせて来たし、それを実際に行動にもうつして来たではないか。それなのに、今更そんな感情を持つのはおかしな話だ。


 その、貪欲なまでの思いに、白紅麗は自分で自分が怖くなった。


 膝の上に置いている両手を、色がなくなるまでに強く強く握りしめる。


 体が無意識に動く。たとえこの食事に毒が入っていたとしても、そんなことは関係ない。それを食べれば、死ぬことができるかもしれないのだ。ここで死んで、全てに幕を引けば、丸く収まる。


 リアムが差し出していた食事を口に含もうとした瞬間に、それが白紅麗の目の前からなくなる。驚いてリアムを見れば、リアムが先にそれを口に含んでいた。


 もぐもぐと咀嚼している姿を、目を見開いて見つめる。



「うん、まあ、我が作ったものだけど、流石にそんなことはしないよ。白紅麗に食べて欲しくて作ったものだから。あ、でも自分で証明するって難しいな……」



 一人で納得したかと思ったら再び悩む。その時、ちょうど食事をとりに出ていっていたロシュが戻ってきた。両手で抱えるほどの大きなカゴに、これでもかというほどの果物がたくさん詰め込まれている。



「とってしましたよ、リアム様」


「ああ、お疲れ様、ロシュ。ところで、これを毒味してもらえないか?」


「………………毒味って」


「いいから、ほら」



 そう言って、リアムは再び箸で食事をつまみ、今度はロシュに向けて差し出す。その行為に驚きながらも、ロシュはおとなしく長机に果物カゴを置き、そのままテクテクと近づいて来たかと思うと、躊躇いもなく差し出されたものを食べた。



「どうだ?」


「……ふつうに、美味しいです。リアム様、いつのまにこんなもの作れるようになったんですか」


「昔からちょっとずつ練習してた。さ、これで大丈夫だ。白紅麗、口を開けて」



 目の前で繰り広げられたその行為に、白紅麗は最早なにを言えばいいのかわからない。

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