第67話
白紅麗の目の前に広がったのは、驚くほどに完璧な和食。
少し大きめのお盆の上に、お米、お味噌汁、焼き魚、野菜のおひたしと漬物、挙句にはお茶まで用意してある。
目の前に広がっているものの意味がわからなくて、白紅麗は瞬きが多くなる。
「どう? 驚いた?」
いたずらが成功したかのような声音で、リアムはうきうきとしながら白紅麗にそう言葉を投げかける。白紅麗は、何を言えばいいのかわからなくて、食事とリアムを交互に見つめた。
リアムはただニコニコと笑って白紅麗を見つめているだけだ。それに対して明らかに困惑している白紅麗を丸無視している。さすがに、かわいそうになりロシュが声を投げた。
「……リアム様、白紅麗が困惑してますよ」
「え?」
「それに、そんなに見られていたら食べにくいんじゃないですか?」
「ああ、それもそうだったね。気づかなかった。ごめんね、白紅麗」
「い、いえ…………」
「じゃあ、ロシュ。我たちも食べようか?」
「……えっ、ここでですか?」
「もちろん。ここにいないと、白紅麗はきっと食べずに部屋に逃げてしまうよ。監視も兼ねて、ちゃんと食べるところを見届けたい」
「……ここに持ってくるの、大変なんですが……」
「それがロシュの役目だろう? ほら、すぐに行って来て」
「……理不尽だ……っ!!」
そういいながら、ロシュは食堂から出て行ってしまった。おもわず、あっ、と声が出そうになるのを飲み込んで、白紅麗は再び自身の目の前に広がっている食事を見る。
何から言えばいいのかわからないが、とりあえず、白紅麗はこのように豪華な食事を食べたことがほとんどない。
屋敷に住んでいた時も、“妖”だと言われ続けていたため、食事も豪華なものではなく、これだけ食べれば死ぬことはないだろうという量しか出されなかったのだ。
そのため、白紅麗は目の前に広がるものを食べていいのかがわからないのだ。
そんな白紅麗の様子を見つめていたリアムは、ふむ、と少し考える。
そしておもむろに立ち上がると白紅麗の方まで歩き、側にある椅子を引っ張って白紅麗のすぐ真横に座る。リアムの行動に戸惑いながら、白紅麗はリアムを見つめた。
リアムは、白紅麗の視線を感じながらも手を伸ばし、箸を手にする。そして、箸で食事をつまみ、それを白紅麗の口元へと持っていった。
「…………え?」
「食べて」
「あ、あの、……」
「いいから。食べて」
「……」
目の前に差し出されたものを見つめる。しかし、白紅麗はなかなかそれを口に含もうとしない。
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