第65話
己が、誰かの手を握り込んでいると言う事実に気づき、白紅麗は慌てて辺りを見回すために体を起こそうとした。
しかし、白紅麗は握っていた力を無くしたが、相手は違った。ぎゅっと握りしめて離さない。
片方の手を封じられてしまっている状態では、体を起こせないため、白紅麗は諦めてコロリと体を転がす。仰向けになり、辺りを見回そうとしたのだ。
――が。
「おはよう、白紅麗。よく眠れたかい?」
「………………」
「何か食べよう。君が下界で食べていたものと同じようなものを作ろうと頑張ってみたんだ。食堂に行こう?」
「…………」
「白紅麗?」
目の前には、驚くほどに美しい、白銀の麗人が現れ、白紅麗は一気に思考能力を失った。自分の瞳に映るものが信じられなくて、しばらく呆然としていたのだが、覗き込まれた時、その長く美しい銀の髪が白紅麗の頬に触れた。
瞬間の白紅麗の行動力は素晴らしかったと思う。
「……っっ!?」
藤色の瞳を溢れそうなほどに見開いたかと思うと、リアムの握っていたその手を無理矢理にでも振りほどき、上体を素早く起こしたかと思うと、そのままリアムから距離を取るために、器用に寝台の上を後ずさった。
ふかふかなこの寝台の上で、素晴らしい身のこなしである。
それに驚いて、しばらくぽかんとしていたリアムだったが、だんだん笑いがこみ上げてきて、おもわず笑ってしまった。それも、結構な大声で。
「あっはははっ!!」
「!?」
「ふっ、く、…ご、ごめん、君の、その行動が……っくっ、おもしろ、すぎ……ぶっく……っ!!」
「……!!」
「ふっ、ふふっ、き、君でも、そんな風に慌てたり、できるんだね」
必死に笑いを抑えながらも、抑えきれない笑いをこぼしながら、リアムは言葉を紡ぐ。白紅麗はというと、他人にこれほどまでに笑われる経験などほとんどなく、どうすればいいのかわからないけれど、なぜか無性に恥ずかしくて顔を真っ赤に染めていた。
おろおろとしては赤い顔を隠すように両手で頬を包み込み、しかし暑いのか、ただ頬を仰ぐような仕草もする。
忙しいなと思いつつ、リアムはぎっ、と寝台の上に身を乗り出してがしっと白紅麗の手首を掴んだ。
「!? あ、あの……っ!!」
「ごめんね、笑ったりして。ほら、行こうか。お腹空いているでしょう? まあ、空いていないと言われても連れて行くつもりだけど」
それは、拒否権がないのでは、と内心で思いながらも、白紅麗は首左右に振って拒否する。
しかし、そんな白紅麗を見ても、リアムはニコッと微笑んでいる。
「拒絶されるなんて、わかりきっていたからね。じゃ、強硬手段だ」
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