第59話

背丈も、白紅麗よりも随分と高い。おそらく、並んで立っても白紅麗は彼女の肩程の背丈しかないだろう。


 そして、やはりというべきか。彼女の瞳も、人間の白紅麗とは違い、丸い瞳孔ではなく、竜特有の縦長の細長い瞳孔だった。


 瞳孔が縦長というだけで、なぜか鋭さを感じてしまう。


 無意識に体を強張らせて警戒を強めている白紅麗をみて、相手は困ったように笑みを浮かべる。



「怖くないよー、そんなに怖がらないでー?」


「……っ」


「本当に怖くないよ〜、そ、そんなに警戒しないで〜?」


「…………っ」


「……えっと、…………」



 どれほど言葉をかけても、白紅麗の警戒は弱くならない。むしろ、なんだかさらに警戒されているような気がするのは気のせいだろうか。


 これどうしたらいいの? と内心で思いながら、どうにか白紅麗の警戒を解かなければと思い、なんとか言葉をかける。


 しかし、白紅麗は返事をすることもなければ、言葉をかければかけるほど警戒を強くする。


 正直に、困り果てた。



「……本当に、危害を加えるつもりはない。だから、そんなに警戒しないでくれないかな」


「……」



 その言葉に、ふっと白紅麗の体から力が抜けたのを感じた。


 それにホッとして、手を伸ばそうとした時。



「……私に、構わなくてもいいです」


「?」



 ぽつりと、白紅麗が言葉をこぼす。その言葉の意味がわからなくて、首をかしげる。



「私に、構っていただかなくてもいいんです。大丈夫です。私は、大丈夫なんです」


「……意味がわからないんだけど?」


「私も、あなた様を警戒しております。ですが、あなた様も、私を警戒してます」


「!」


「人間だから? 得体の知れない存在だから? …………こんな、色を……持っているから?」


「…………」


「無理して、私に構わないで下さい。大丈夫。私は、大丈夫です」



 同じことを何度も何度も繰り返して呟き、白紅麗は無意識に自分の体をぎゅっと抱きしめた。その体を抱きしめる腕は微かに震えているが分かる。


 言葉をかけようと口を開きかけた時。扉が遠慮がちにかちゃっ、と音を立てる。


 それに反応したのは竜人の彼女の方だった。



「誰だ」



 短く、鋭い誰何を投げかける。


 ひょこりと、姿を見せたのは、双子だった。



「レプレ、レプス……? どうしたの、こんなところに……」


「「あ、あの……」」


「ん?」



 おずっ、と言葉を出して、窺うように部屋を見る。それに疑問を持って、彼女も同じように視線を巡らせる。しかし、この部屋で珍しいものといえば、今寝台の上で警戒心を丸出しにしている少女しかいない。

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