第56話
「気は済んだか?」
落ち着いた男性の声が、その場のなんとも言えない空気を霧散させる。ハッとしたように双子は白紅麗を抱きしめて離さない男性――リアムをみた。
双子は、リアムをみて何かを言いたそうに口を開閉したけれど、結局何も言わずにうつむいた。
リアムの方も、あえて双子には何も言わず、一瞥したのちに、白紅麗を抱きしめたまま移動しようとする。
しかし白紅麗がぐっと体なら力を入れて抵抗する。
「……っ、は、離してください……っ」
「? ああ、抱きしめたままだったな、すまない」
そう言って、リアムはすっと白紅麗を、腕の拘束から解放する。それにほっと息をついて白紅麗だったが、それも束の間。気づけば、リアムに抱き上げられていた。
「……えっ!?」
「さて、これで移動しやすいな。といっても、寝台に戻すだけだから、そこまでの距離ではない。そのまま大人しくしていてくれ」
「や、あの、お、下ろしてくださいっ!」
「なぜ?」
「な、なぜって……!」
「ちょっとそこまでの距離を歩くだけだ。大丈夫。怖くないから」
そういう問題じゃない! と叫びたかったけれど、そんなことをできるはずもなく、白紅麗は結局寝台まで連れて行かれた。
まるで壊れ物を扱うかのように、そっと寝台の上に戻されて、白紅麗は戸惑う。顔を上げて、相手を見る。その時初めて、白紅麗は相手をまじまじと見たのだと思う。
白銀に輝く長い髪は、癖など知らないかのようにまっすぐで、羨ましく感じるほどに美しい。その髪を、綺麗に頭の上で一つに括っているのを見て、落ちてこないのだろうかと場違いなことを思ってしまう。
切れ長に瞳は、それでも少しだけ目尻が下がり、優しくふんわりとした雰囲気が感じられる。そして、その瞳の色は、髪と同じ銀の色だった。白紅麗との違いは、その銀色の瞳の中にある瞳孔が縦長という、竜特有のものだけだ。
思わず見とれてしまった白紅麗は目を見開いたまま固まってしまう。
そんな白紅麗の視線に気づいたのか、リアムが白紅麗と視線を合わせて、そして、驚くほどに蕩けるほどの微笑みを白紅麗に見せる。
「……っ!!」
不意打ちのそれに、白紅麗は自分の顔がかっと赤くなったのを自覚する。
「珍しいか?」
微笑みながらそんな言葉を投げかけてくるリアムに、白紅麗は慌てたようにうつむいた。自分だって、まじまじとみられるのが好きではないのに、まさかその行動を他人にしてしまうとは。白紅麗はぐっと唇を噛む。
しかし、頬に暖かさを感じたかと思うと、ぐっと上向かされる。藤色の瞳は、再び白銀の麗人を見つめることとなった。
リアムは白紅麗の視線を自分に固定させて、そして微笑む。両頬を包んでいるその暖かく大きな手が羞恥を持ってくる。
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