第55話
真紅の瞳に怒りをたたえて、ロシュは双子を睨みつけた。
「お前達は、お前達自身が吐き出した言葉の意味を、きちんと理解しているのか、レプレ、レプス」
真剣な声で、真剣な瞳で、ロシュがそう問いを投げかける。双子は、またぐっと言葉を詰まらせる。
「あの、……」
白紅麗が声を上げる。
それに、ロシュと双子が反応する。
「あの、いいのです。その子達がいっているのは事実ですから」
「でも――っ!」
ロシュが何かを言いかけた時に、双子が再び癇癪を起こしたように叫び出す。
「お前に庇ってもらいたいなんていってないっ!」
「余計なことを言うな!!」
「レプレ、レプス!」
ロシュが咎めるように声を上げる。
しかし、白紅麗の反応は少し驚いているような反応だった。そして、思わずだろう。小さく呟いたのだ。
「……庇う?」
その声音は、本当に不思議そうな響きが含まれていて、ロシュは驚く。癇癪を起こした双子も、白紅麗のその心底不思議そうな声音を聞いて、戸惑ったのだろう。表情がふっと困惑のものに変わる。
白紅麗はうつむかせていた顔を上げた。そして、ロシュと、双子を見る。
双子の表情を見て、白紅麗はああ、と思う。そして、言葉を吐き出したのだ。
「――誤解をさせていたのなら、ごめんなさい。私は、別にあなた達を庇ったわけではないの」
「なっ!?」
「えっ!?」
「私は、私の中に持っている事実と、あなた達がいってくれた言葉に相違がなかったから、その言葉を肯定しただけ。否定する必要がなかっただけ。だから、あなた達を庇ったわけではないのよ」
ただひたすらに、静かに凪いでいる藤色の瞳は、しかし光を宿していない。淡々と、彼女自身の中にある事実を述べただけだ。
それに、双子はどうすればいいのかわからなくなって、とうとうは言葉をなくしてしまう。何を言えばいいのかわからなくなったのだ。目の前にいる人間の少女は、あれほどに酷い言葉を浴びせたにもかかわらず、平気な顔をしてそれを受け止めている。
このままではいけないと、本能的に感じ取ったのだろう。
双子が白紅麗に向かって手を伸ばし、声をかけようとする。
しかし、白紅麗はそれを拒絶した。
「だめよ」
「「!!」」
「あなた達からすれば、私はとても醜い存在なのでしょう? そして、その認識は間違っていないわ。だから、無理に私に手を伸ばそうとしなくていいの。無理に私に触れようとしなくていいの。触れてしまえば、あなた達が汚れてしまうでしょう?」
「「あ、あの…っ」」
「その認識を持ったあなた達は、“正しい”のよ。何も“間違って”いないわ」
「「話を……っ」」
「…………ごめんね」
その言葉が、白紅麗が完全に自分たちを拒絶したものだと、双子も理解した。
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