第54話
「……数年前に、僕は君に助けられたから」
「…………」
白紅麗には目の前にいる少年が何をいっているのか、全くわからなかった。白紅麗が助けたというのは、一体どういうことなのだろうか。そんな記憶は全くない。そもそも、あの家から出ることがほとんどなかった白紅麗と接点を持つこと自体が稀なのに。
疑問が大きくなる。
どこで出会って、どうやって助けたのだろう。そんな白紅麗の疑問を感じ取ったのだろう。ロシュがふっと微笑んだ。
白紅麗は、その微笑みに驚いた。
――ただ純粋に、自分に向けられた微笑み。
どう反応していいのかわからなくなる。
「君が覚えてなくても、僕はちゃんと覚えてる。君のその指先の優しさも、かけてくれる声の優しさも、その両腕の暖かさも。全部」
ロシュのその言葉に、白紅麗は本気で戸惑う。そんな記憶は全くない。きっと何かの間違いだ。そう声に出そうとしたけれど、先にそれをいったのは双子だった。
「嘘だ!!」
「人間が助けてくれるはずがないよ!」
「だって、狩られる!!」
「愛玩にもされる!!」
「抵抗すれば殺されるんだっ!!」
叫ぶような声でそう訴えてきた双子に、白紅麗はどんな反応をすればいいのかわからなくなる。
こんなにも小さな子たちが、こんなにも怯えている。それほどまでのことを、自分たちはしたということなのだろう。
しかし、疑問がある。この双子達は、“大人”に恐怖して嫌悪しているわけではなく、“人間”に恐怖して嫌悪している。
それがなぜなのかわからない。
しかし、白紅麗はそれはどうでもいいことだと考えをまとめる。たとえそれを気にしたとしても、拒絶されている自分にはどうすることもできないのだ。
白紅麗は再びうつむいた。
「……私は、ここには居座りません。あの子達の場所を取るような真似をするわけには参りません」
白紅麗がそう言葉にすると、双子は歓喜した声で答えた。
「そうだよ! ここはお前の場所じゃない!」
「そう! 僕たちの居場所だ!」
まるで飛び跳ねて喜びそうなほどに双子の声は嬉々としている。それを聞きながら、白紅麗は体をもぞりと動かす。いまだに自分を離してくれない彼の腕から逃れようと身をよじったのだけれど、彼の方も白紅麗がどう考えて行動しているのかわかっているらしくその腕を緩めることはない。
白紅麗が口を開こうとすると、ロシュが怒鳴った。
「いい加減にしろよ、お前達っ!!」
「「っ!?」」
ロシュの突然の怒鳴り声に、双子はびくっと体を揺らす。
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