第50話

戸惑いをさらに大きくして、白紅麗はおろおろとする。と、その時になって初めて気付く。



(……っ!? な、なにこの格好!?)



 首元のあいた、衣。腕も細い筒状になっていて、胸の膨らみもわかってしまう。唯一は、足が足首まで隠れているのと、胸から下の生地がふわりと広がっていることだろうか。


 白紅麗はかっと頬を赤くして、両腕でそこを隠そうと覆うようにする。どこかに、自分の着慣れた衣がないかと辺りを見回すけれど、そんなものはどこにも見当たらない。恥ずかしさで瞳を潤ませながら、白紅麗はそこに呆然と立ち尽くした。


 一体なにがどうなっているのだろうかと、考えていると、かちゃ、と扉の開くような音がする。はっとして、白紅麗はそちらに視線を向ける。


 ひょこりと現れたのは、子供二人だった。


 現われた子供に白紅麗は驚いたけれど、子供の方も驚いていた。


 背丈はそんなに大きくない。白紅麗の胸下ほどの背丈だ。双子なのだろうか。とてもよく似ている。大きな瞳は赤く、少しだけつり上がっている。唯一の違いは、その子たちの髪色が、白と黒という、対照的な色をしていることだろうか。


 白紅麗は口を開こうとした。けれど、それはできなかった。



「ぎゃあ――――――っ!!」


「起きた――――――っ!!」



 二人は叫んで、その場から走り去っていった。



「……………………えっと」



 その反応に、白紅麗はどうすればいいのかわからなくて、戸惑いの声を上げるだけだった。


 とにかく、ここから出なければと思い、白紅麗はそろりと扉に近づいて、そして戸惑った。



(……こ、これ、どうやってあげればいいのかしら……?)



 扉の前で固まった。


 見たことのない作りに、白紅麗はどう手を出せばいいのかわからない。けれど何かしなければと思い、その扉に向かって手を伸ばす。突起部分を掴んで、どうすればいいのかと思っていると、力が入ってしまったのか、それが下に移動した。



「わっ!」



 驚いて声を上げると、体の態勢が崩れて扉に寄りかかるようになる。すると、その扉が開いた。


 偶然の産物ではあったけれど、開いたのなら好機と思い、白紅麗は扉からその身を出そうとした。


 けれど、できなかった。



「うわっ!?」


「……っ!?」



 人の声が聞こえてきたのだ。白紅麗はびくっと驚いて声までは出なかった。


 慌てて視線をそちらに向ければ、自分とさほど変わらない背丈の男の子が立っていた。まだ成長途中なのだろうか。声は少し高めだった。優しげな目つきの彼は、白紅麗の存在に驚いている。しかし、白紅麗も驚いていた。それは、彼のその髪色と瞳の色が先ほど見た子供たちよりもなお深い真紅だったからだ。


 白紅麗は、その藤色の瞳を見開いて思わず見つめてしまった。

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