第42話
「白紅麗様は、帝のことをどう思っていらっしゃるのですか?」
「え……?」
唐突なその質問に、困惑の声を返す。どうと言われても、正直に変わった人だなという印象しかない。
「……とても、変わった方だなと、思っております」
「……なぜ?」
「私を、偏見なく見てくださったからです」
「……」
白紅麗のその言葉に、彼は少しだけ驚く。
「私はこの見た目です。髪色も変わっておりますし、瞳の色も、紫と………他の方とは、違いすぎるものを持っております」
「…………」
「ですが、帝はそのままでもいいと言ってくださいました。出会ってすぐにそう言っていただけたのは、本当に嬉しかったです。私を、肯定してくれていたようで、本当に……」
「そう、何ですか……」
「もしかしたら、あの方も、何かそう言った経験があるのかも知れませんね。ですが、私の経験と、あの方の経験では差がありすぎるでしょう」
「それは、なんとも……人それぞれに違うと思うので……」
「そうですね……」
白紅麗は、ふっと笑った。そして、言葉を吐き出した。
「――私を、始末しに来られたのでしょう?」
白紅麗のその言葉に、彼はさすが驚愕した。思わず、そこが船の上だと言うことも忘れて、体をずらしてしまう。しかし、がたんっ、と音を立てたことに驚いて、じっとする。
相手が驚いていると言うのに、白紅麗は落ち着き払っていた。
「なに、を、申されるのですか、白紅麗様?」
取り繕っても仕方がないとわかっていたけれど、思わず口からはごまかしな言葉が吐き出される。
しかし、白紅麗は凪いだ瞳で相手をじっと見つめた。
「帝の、影の方、ですよね?」
「……」
疑問で聞いてきているはずなのに、そこにはなぜか確信しているような自信も見える。変わらない微笑みで、見てくる。
「……いつ?」
「ほとんど、最初からです」
「なぜわかった?」
「なんとなく、です」
「それで納得されると思っているのか」
「いいえ。思っておりません」
「では、なぜここに連れて来られたのか分かっているのか」
「もちろんでございます」
「!」
「この湖……“生贄の湖”ですね。あの、伝説の竜への貢物を渡すための」
「…わかっていて、なぜここについて来た」
「これが、あなたの私への、せめてもの慈悲だと思ったからです」
白紅麗の言葉に、彼は言葉を失う。
「この道中で私を始末することなんて、容易かったでしょう。私は、武道とは無縁の人間。身を守る術など持ち合わせておりません。あなたがその気になれば、私は今ここにはいない」
「……」
「それなのに、私はここにいる。“生贄の湖”の上に」
それが、どういう意味を持っているのか、わからないはずがない。
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