第41話

その藤色の瞳に、今までに見たことのないほどの喜色をうかべ、見たことのない、子供らしい笑みを乗せる。



「……っ。ありがとう、ございます!」


「な、え?」


「こんなにも素敵なところに、連れて来てくださって……、私、屋敷の外に出たとこもなかったですし、道中は景色をあまり見ておりませんでしたから……。ですが、これほどに美しい場所にはとても感動いたしました」


「そ、そう、ですか……、それは、よかった……」


「はい、本当にありがとうございます……!」



 自分の立場や状況も忘れて、白紅麗は再び湖の方へと視線を向ける。


 美しい緑と、美しい青の景色に見入る。体がそわそわとする。


 それを見とめたのだろう。付き人として一緒にいる男性が、声をかけて来た。



「どうか、されましたか?」


「あ……、えっと……」


「遠慮なさらないでください。白紅麗様」


「……えっと、湖に、触れて、みたい、です……」


「湖に……?」


「はい……」



 その白紅麗の意外すぎる願いに、付き人の彼は少しだけ目を見開いて、そして、声を上げて笑った。それに驚いて、白紅麗の体がびくっと跳ねる。


 けれど、彼はなかなか笑いを抑えられず、しばらくはその場に笑い声が響いていた。


 どうすればいいのかわからなくておろおろとする白紅麗に、彼はようやく落ち着いたのか、瞳に浮かんだ涙を指先でぬぐいながら、答えてくれる。



「それでは、船に乗って、湖に出てみますか?」


「い、いいのですか……!?」


「ええ。本来なら、帝と共にしていただこうかと思いましたが、いいでしょう。それに、これほどに望まれているのに、無視はできませんから。帝ではなく、私で申し訳ありませんが、おつきあいいただけますか、姫?」



 そう言って、片手を出した彼をみて、白紅麗は戸惑う。その手を取るべきなのかわからなくて、結局、白紅麗はその手を取ることなく、よろしくお願いしますとこぼした。


 白紅麗のその失礼な態度に、しかし彼は何も言うことなく、かしこまりました、と返事をして、白紅麗を誘うように、湖畔に止めてある船の方はと歩いていく。



(……準備がいい……)



 そう思いつつも、白紅麗は湖に出れると言うことに意識を取られている。


 船に乗り込み、湖に出る。陽の光を反射して輝く湖面に、白紅麗も瞳をキラキラとさせて見入る。


 その様子を、目の前で見つめているその人物は珍しいものを見る瞳でじっと白紅麗を見つめる。


 その視線に気づいて、白紅麗はぱっと相手を見る。ニコッと微笑まれて、白紅麗は戸惑ったけれど、同じように微笑みかえした。

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