三章
邂逅
第39話
七日後。白紅麗の元には帝との婚姻の予定の日付が届く。それをぼうっと見つめながら、白紅麗は手紙をたたむ。
場所は帝がひっそりとしようとの仰せのことで、別荘地になったらしい。
大きく、美しい湖のある場所と書いてあったけれど、白紅麗にはどうでもいいことだ。
準備するものもほとんどないらしく、全て帝が用意するとのことだった。手紙を見て白紅麗が思ったのは勝手にすればいいということだった。
どうせ白紅麗には拒否権はない。ただ指示されたことをこなせばいいだけなのだから、もう勝手に進めればいい。
璃と会うこともできなくなる。すでに、会えない日々が続き、白紅麗は心身的にだいぶ参っている。
自分がこれほどまでに璃に依存していたことに驚くと同時に、束縛しすぎていたのではないかと思ってしまい、それも相まって白紅麗は苦しさを感じていた。
結局、あれから白蓮は白紅麗に礼儀作法を叩き込むという名目で部屋にやってくる。しかし、白紅麗は白蓮から教わることなどほぼ皆無で、白蓮は、ただ白紅麗を罵倒する日々が続いている。
教える必要がないことが、よっぽど悔しいのか、なにかと白雪姫と比べられるけれど、白紅麗からしてみれば、それができない白雪姫は如何なものかと思うほどに比べられる内容はくだらない。
しかし、それを態度に出せば、暴力が飛んでくる可能性もあるため、ただひたすらにそれを聞いて、肯定するしかできない。
鬱憤のたまる日々だ。
白雪姫も、白紅麗に会うために何かしているらしいけれど、それはことごとく阻止されているらしい。
それを止めているのは、璃だと小耳に挟み、白紅麗はそれだけで、胸が苦しくなると同時に、白紅麗を理解している璃の行動に嬉しさを感じる。
それを感じる自分自身に、白紅麗は自身を嫌悪する。
(…何を考えているの……)
そうして、首を左右に振って、その考えを振り払う。
何か気を紛らわせようと思い、白紅麗は常に用意してある布切れと、刺繍糸を取りに立ち上がる。
箪笥の一番上に丁寧にしまってあるそれを取り出して、白紅麗は先ほど座っていた場所に戻る。
――暖かな日々が続き、春が近づいている。
薄い桃色の花びらが、木々にくっついている。それを思い出しながら、白紅麗は手を動かす。
茶色の糸に、黒い糸。それと、薄い茶色の糸を使って、枝を表現する。
花びらは、桃色の糸と、赤い糸。時々橙色の糸も混ぜ、完成させていく。
ただひたすらにそれを行なっていて、白紅麗は気づかなかった。
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