第38話
しかし、気づいてもそれを見逃すわけにはいかず、帝だけは反論した。
「俺は出て行く必要性を感じない。ここにいるからな」
「……いえ、お引き取りください。帝」
「いやだ」
「嫌でも、です。私は、もうあなたと話すことはございません」
「俺はある。言い訳をしにきたと言っただろう」
「……それは、あなた様の意思に関係なく、この婚姻が結ばれそうになっていることを指していらっしゃいますか?」
「!?」
「そのお歳で、いまだに正室を持っていらっしゃらないのですから、わかりますよ。けれど、あなた様は確信していたはずです」
「っ!!」
「私の名を出せば、こうなると。わかっていらっしゃったはずです。けれど、あなたはそれを言った。……それが、この結果です」
「白紅麗……!」
「もう、いいでしょう……」
これ以上、自分を苦しめないでほしいと、白紅麗は遠回しに伝える。
苦しくて苦しくて仕方のないこの家で、会えば罵倒しかしない兄に教えを請わなければならず、そして、結局、苦しめられる。
白紅麗は、俯く。まっすぐに前を見られない。
――それは、白紅麗の弱さ。
結局、無理強いをすることはできず、帝含め、全員が白紅麗の部屋から出て行く。それを見送って、白紅麗はその場で大きく息を吐き出した。
(……息苦しい……)
心臓がばくばくと音を立ててくる。
一緒に涙も流れてくる。
会いたい。
(…………璃……、会いたい……)
こんな自分のそばに、本当にずっといてくれた人。いつでも、“白紅麗”を案じてくれて、手を差し伸べて、抱きしめて。突然だった口づけだって、白紅麗にとっては、恥ずかしさはあったけれど、いやではなかった。
いつも、あの優しい鳶色の瞳で見つめてくれて、受け入れてくれた。
こんなにも、心が璃を求める。そばにいてほしいと願う。
それなのに――。
(璃は、……白雪姫のもの……)
もうそばにいてもらうことは二度とない。あの手でこの体に触れてもらうことも、髪を撫でてもらうこともない。もちろん、口づけだってもうしてもらうことはない。
胸が、痛い。
静かに、頬を涙が伝う。
もう、どうしようもないとわかっている。けれど、もう少し、白紅麗が自分のこの気持ちを自覚していたら。璃を受け入れることができていたなら。
こんな苦しい思いはしなかったのかもしれないのに。
考え、思っても仕方のないことを後悔してしまう。
白紅麗は、夜になるまで結局部屋から一歩も出ることなく、ただ部屋の中で泣き続けていた。
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