第36話

「貴様っ、相手が誰なのかわかっていてその無礼な態度を取っているのかっ!?」


「……あぅっ!?」


「貴様のせいで、この京家にお咎めがあったら、どう責任を……――っ!?」



 白紅麗のその麦穂色の髪を鷲掴み、無理矢理に頭を上げさせる。痛みに顔を歪めて小さく悲鳴をあげる白紅麗をそれでも無視して、その顔を覗き込んだ白蓮は、しかし白紅麗のその顔を見て言葉を飲み込んだ。


 帝の方は予想していたのか、白紅麗を見て痛々しい表情を作る。


 白蓮は驚きで固まる。


 白紅麗は掴まれている髪を取り戻そうとしたけれど、強い力で握り込まれているため動けば体が痛みを訴えてくる。


 今度は、帝が動いた。



「離せ」



 低く、威圧的な声を受けて、白蓮はそれに恐怖を感じ白紅麗から手を離す。



「……白紅麗、平気か?」


「大丈夫、です」


「慣れているから、か」


「っ、そのようなことは……っ」


「いい。大体わかっていると言っただろう」


「…………」



 白紅麗は再び俯く。それは、顔を見られたくないというのもあるけれど、否定もできないからだ。


 そんな白紅麗の様子を見て、白蓮は言葉を失う。


 帝は、白蓮に厳しい瞳を向ける。



「……疑問に、まだ答えていなかったな」


「……!」


「何故白紅麗が俺の身分がわかったのかという、その疑問だ」



 そう言った帝は、すっと自身の髪に手を伸ばし、そして、その髪を括っている紐を解く。


 見せつけるように、その手のひらに乗った髪紐をみて、しかし白蓮は困惑する。



「わからないか」



 白蓮のその様子に、帝は呆れたようにそう言った。



「この髪紐は、“金”と“紫”と“藍”の色の糸で作られている」


「…………?」


「まだわからないのか…………白紅麗、お前は、何故そこまで賢くなれた……」


「……わ、私も、……驚いて、おります……」


「そも、“金”と“紫”の色の組み合わせは、皇家でなければ使えない組み合わせだ」


「!」



 帝のその言葉に、ハッとしたように白蓮が息を飲む。それに思わずだろう、帝がため息をつく。



「それから、最後の“藍”は、俺の瞳の色だ。そこそこ噂になっていると思っていたが、まるで知らなかったようだな」



 帝の言葉に、白蓮は再び困惑する。


 その様子に、帝はさらに呆れてしまう。これでよく、貴族を名乗れたものである。



「白紅麗、お前は知っていたのだろう」


「……は、はい、存じ上げておりました……」


「秘匿されていた白紅麗が知っていて、なぜ外に自由に出入りでき、情報を聞くことのできるお前が知らないのだろうな」



 明らかに蔑んだその言葉に、白蓮はかっとなる。

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