第35話

「……それがわからないから、聞いているんだ」



 まるでその行動自体が屈辱であると全身で語っている白蓮を見て、白紅麗はどうしたものかと悩む。しかし、黙っていても仕方がないと考えを叩き出し、素直に答えた。



「白蓮様も、一度お会いしていらっしゃいます」


「なっ!?」


「昨日、私と共にいらっしゃった方です。あの方が、帝です」


「っ!?」


「白雪姫に、…………ああ、失礼いたしました。白雪姫様に、会いにこられていたみたいです。白雪姫様も一度顔を合わせております。そこは、白雪姫様に確認していただければわかりますわ」


「お前はっ、帝とわかっていて、話をしていたのか!?」


「もちろんでございます。今代の帝は、深い藍の瞳をお持ちと伺っておりましたから」


「そんな人間、他にもいるかもしれないだろう!?」


「そうですが、あの方はその身に身につけていらっしゃいましたから……」



 白紅麗の言葉に、白蓮は疑問を持つ。


 “その身に身につけていた”とは、何のことだろうか。


 白蓮がその疑問を口にしようとした瞬間。



「――やはり、お前は賢いらしいな、白紅麗」


「!?」


「っ誰だっ!?」



 突然聞こえてきたその声に、白紅麗は驚く。それは白蓮も同じだった。しかし白蓮はその姿を認識した瞬間、顔を蒼白にする。



「白紅麗、昨日ぶりだな」


「な、何故ここに、いらして……っ」


「また会おうと言っただろう。……それと、言い訳をしに、な」


「…………」


「で。白紅麗の兄、だったか。貴殿のその疑問には俺が直々に答えてやろう」


「!」



 と、その前に。と帝が白紅麗に足を向ける。そして、その顔を隠すようにしている衣を引っ張って取り上げる。



「あっ!」


「俺は、お前に会いにきているんだ。その格好は無礼だろう?」


「……私の、正装です」


「認めん」


「…………」


「さて。白紅麗は何故俺が帝が気づいたのか。その疑問をお前の兄はお前に投げかけていたな」


「……は、はい」


「俺の言った通りだろう?」



 帝の言葉に、白紅麗はぐっとおし黙る。たしかに、帝の言っていた通りに、兄である白蓮はわかっていなかった。


 その事実に、白紅麗は正直にどうすればいいのかわからなかった。


 帝は、ずっとうつむいたままの白紅麗をじっと見つめ続ける。



「白紅麗」


「……はい」


「顔を上げろ」


「……嫌です」


「何故」


「……あげたくないから、です」


「その理由は」


「……言いたくありません」


「白紅麗」



 促すようなその声にも、白紅麗はうつむいたまま首を左右に振るだけだ。


 それに焦りを覚えたのだろう。白蓮が動いた。足を踏み出して、座り込んでいる白紅麗に向かって手を伸ばす。ハッとしたように帝がために入ろうとしたけれど遅く、白蓮は無理矢理に白紅麗の顔を上げさせた。

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