第34話

箪笥の中から持っているもので一番のものを取り出し、自身で着付けをしていく。本来ならば、女中数人に手伝ってもらわなければ難しい着付けを、白紅麗は一人で黙々とこなしていく。


 さほど時間をかけることなく、白紅麗は着付けを終了させる。頭からかぶる衣も、着たものと合うものを選び、それを頭からかぶる。


 そして、いつ開くかわからない襖の前で座り、白紅麗は襖が開くのを待った。



 ――開いたのは、家族が朝餉を終わらせた後だろう時間帯だった。



 襖を開いた白蓮は、待ち構えていた白紅麗に驚きを隠せない。


 白紅麗は白蓮に向かって深々と頭を下げ、挨拶をする。



「おはようございます、白蓮様。貴重なお時間を、私のようなもののために割かせてしまい申し訳ございません。本日は、よろしくお願いいたします」



 白紅麗のその言葉に、白蓮はどうすればいいのかわからなくなった。


 今まで、一度としてきちんと見てこなかった、京家の一の姫。


 まともな教育を受けてこなかったはずの彼女は、未だに教育中の白雪姫よりも、よほどそれが身についている。


 それを自覚して、白蓮は目の前のその存在が恐ろしくなった。



「お前は……なんなんだ」



 思わず、そう言葉を吐き出してしまうほど。


 白紅麗は白蓮には見えていないとわかっていても、微笑みを崩すことなく、聞き返す。



「なに、とは?」


「それはこちらの台詞だ、聞いているのもこちらだ!」


「質問の意図がわかりかねます」


「……っ、教育を受けてこなかったくせに、なぜそれほどまでに礼儀作法ができるのかと聞いているんだ!!」



 白蓮の言葉に、白紅麗はああ、と小さく返事をする。



「白雪姫様が習っている間、私も白雪姫様の練習相手として一緒に勉強をさせて頂いたからです」


「その、程度で身につくものではない……」


「ですが、私はこうして出来ております。それが全てでしょう」



 そう、教える必要などまったくないほどに。白紅麗は徹頭徹尾完璧に白蓮の相手をしている。きちんとした受け答えに、質問に対する疑問と答え。もしこれが、白雪姫相手なら、すでに会話として成り立つことはない。


 それなのに、白紅麗が相手であるにもかかわらず、会話が成立する。


 白蓮は、思わず自身の中にあった疑問を口から出してしまった。



「……お前は、どうやって帝と知り合ったんだ」


「?」


「この家にずっと縛り付けられ、秘匿され続けたお前が、帝と出会う確率はない。にもかかわらず、なぜお前は帝に指名された」


「……あの方と、一度逢瀬をしたからでしょう」



 白紅麗の言葉に白蓮は苦虫を噛み潰したような表情になる。

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