第32話

それでも白紅麗は、心を許した相手にどうしても離れて欲しくなくて反論を口にする。



「わ、私も、璃が、大切なの。だから、……っ」


「そうなのですか? ですが、わたくしはそれを姉様から聞いたことはありませんもの……。そう言われましても、わたくしにはもうどうすることもできません」


「…………」



 白紅麗は、白雪姫を見た。そして、理解した。



(……私は、今までなにを、見てきたのだろう……)



 今まで自分を慕ってくれていたと思っていたその愛らしい妹の瞳は、明らかに蔑むような感情が含まれている。


 そういえば、昔一度だけ、思い他人はいるのかと聞かれた。その時は、璃のことを異性として特別には想っていなかったから、誤魔化したけれどどうやらその時から狙われていたらしい。


 父親からも、璃を白雪姫のそばに居させるということを、何度か言われていた。けれど、璃がそれを拒否していたと知っていたから、璃の気持ちに任せると言い続けていた。もともと、何かを言えるような立場には居ない。


 白紅麗は、ふっと、全てがどうでもよくなった。


 どうせ、何かを言っても無駄なのだ。


 いえば言うほど、自分も、そして璃も苦しめる。


 それならば、諦めたほうがいい。決まっている。



(……本当に、私は…………愚かね)



 白紅麗は立ち上がる。


 白雪姫がそれに反応する。何かを期待するようなその様子を見つめつつ、白紅麗は、今までに見せたことのない、微笑みを白雪姫に向かって向けた。


 それに、白雪姫は驚愕して目を大きく見開いている。漆黒の瞳が溢れるほどのその光景に、それでも白紅麗はなんの感情も載せられない。



「……白雪姫様がそれをお望みならば、仕方ありません。出過ぎた真似をいたしました。申し訳ございません」



 そういって、白紅麗は実の妹に対して、膝を折り、頭を下げて謝った。



「ね、姉さ……っ!?」


「璃」


「……っ白紅麗様!」


「あなたは、もう私の付き人ではないの。ここにはもう来ないで。白雪姫様のお側にちゃんといるのよ」


「白紅麗様っ、手放さないでください、離さないでください!!」


「……お話は、以上でしょうか?」



 璃の悲痛な声を聞きながら。


 白紅麗はそれでもそれを聞き流し、父親に向き直る。父親は白紅麗を見て目を見開いている。それは、白蓮も同じだった。


 ああ、と思い出す。



「礼儀作法のことでしたら、ご心配なさらないでください。私は、完璧にこなせます」



 貼り付けた微笑みは、今まで白紅麗が見せなかった最上の笑み。

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