第31話

「………………夢?」



 信じることができなさすぎて、璃は思わずそんなことを言ってしまう。しかし、抱きしめている白紅麗がもぞりと腕の中で動けばそれはもう夢ではないと現実に突きつけられる。


 華奢な体は、すっぽりと腕の中に収まっていて、暖かい。


 璃は急に恥ずかしくなって来て、思わず白紅麗から体を離した。



「あ……っ!」



 かすかに溢れたその声に反応して、璃が思わず白紅麗を見れば、今までに見たことのない白紅麗の表情が目の前に広がる。


 羞恥で顔を真っ赤に染めて、瞳を潤ませている。珍しすぎるほどに珍しいその藤色の瞳は真っ直ぐに自分を見つめてくれていて。


 璃も、その顔を思い切り赤く染め上げた。



「……白紅麗様……、それは、……ずるいです」


「そ、そんなことを、言われても……!」


「もう、本当に……――」



 優しい微笑みを浮かべて、璃が何かを言おうとした瞬間。


 部屋の襖がすぱんっ、と開き、誰かが入ってくる。驚いて二人は詰めていた距離を離れる。襖の方に顔を向ければ、そこには父親と、白蓮、そして白雪姫が立っていた。


 その顔ぶれに白紅麗は戸惑いを隠せない。そして。



「……お前の、婚姻が決まった」


「……え?」


「帝が、お前をお望みなのだ。お前の嫁ぎ先は皇家だ」


「……ま、待ってください、どうして……!?」


「それは、儂が聞きたい。なぜお前のようなものを望まれたのか!!」


「……っ!」


「それも、妖の技か? 穢らわしいことこの上ないな。……白雪姫」


「はい」


「お前の婚姻相手も、ここで決める。――璃、お前だ」


「なっ!? お待ちください、俺はただの使用人で!」


「知らぬと思っているのか」


「…っ!」


「あ、きら……? どういう……」


「…………それ、は」



 すでに話についていけないのに、さらに混乱させられる。


 なにが、起こっているのだろうか。



「……とにかく、これはもう決定事項だ。白蓮」


「はい」


「この妖に、教育を叩き込め。粗相をされて我が京家に不利になられては困る」


「……私がするのですか」


「お前以外にいないからだ」


「……わかりましたよ。やります」



 不満を隠そうともしない白蓮のその言葉に、白紅麗は怯えるしかできない。どうすれば逃れられるのだろうかと考える。


 そんなことに思考を巡らせて入れば、白雪姫が嬉々とした声で語り出す。



「璃、わたくし、ずっと前からあなたのことを思っていたの……」


「…………」


「だから、今回、お父様に無理を言ってあなたをわたくしの生涯の夫に選んだの!」


「…………なぜ、俺でなければならなかったんですか」


「だから、あなたを想っているのよ、わたくしは」



 璃のその言葉に、頬を染めてそういう白雪姫。その姿は本当に愛らしい。

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