第24話
白紅麗は部屋の中で顔を青くして、そして思わず部屋から出てしまう。もしかしたらまだそこらへんにあの人がいるかもしれないと思ったからだ。なんとか、先ほどの無礼な態度を謝らないとという意識が働いたのだ。
しかし、襖を開けて、目の前に男性用の衣を見て白紅麗は驚いて思わず小さく悲鳴をあげながら後ろに数歩後ずさってしまう。その時に自信が着ていた衣の裾を踏んづけてしまい、背中から倒れそうになる。
痛みを覚悟して、白紅麗は目を瞑ったけれど、どれほどたっても痛みは襲ってくることはなく、代わりに暖かな何かに体が包まれた感覚に襲われる。
そっと瞳を開ければ、目の前に、男性用の衣。そして、自分の肩を抱き寄せるようにしている、腕の感触。
はっとして上を見上げれば、案じたような藍の瞳と目が合う。
「大丈夫か?」
「は、……はい、申し訳、ございません……」
「怪我はないか?」
「……は、はい。ありま、せん……」
「そうか。ならよかった」
「…………」
驚きを隠せない。
こんな自分に、こんなふうに心配してくれる人がいたなんて。しかも、自分の容姿を見ているにも関わらず、こんなにも優しい言葉をかけてくれる人なんて滅多にいない。
それが、雰囲気や表情に出てしまっていたのだろう。
その人がふっと笑って白紅麗を見つめた。
「容姿なんていうものは、生まれつき人がそれぞれに持っているものだ。それを否定したところでどうにもらなんだろう?」
「…………」
「さて、ところで聞きたいのだが……」
「……っ!」
白紅麗ははっとして、その人の腕から自分の体を取り戻す。それに驚いたように藍の瞳を見開いた相手が白紅麗を見つめるけれど、白紅麗はそれどころではない。
もし、こんな場面を家の誰かに見られでもしたら大変なことになる。
白紅麗は人がいることも気にせず、箪笥から大きめの衣を取り出して、それを頭からかぶる。
そして、開いた襖の前に立っている男性に向かって、深々と頭を下げた。
「……大変申し訳ございませんでした。不快な思いをさせてしまったお詫びは、この身で支払います故、どうぞ、家はご容赦くださいませ……!」
白紅麗の突然のその謝罪に、相手が驚く。
そして、白紅麗に声をかけた。
「……お前は……」
「……白雪姫に、妹に、会いに来られたのですよね?」
「え、あ、ああ……」
「では、ご案内いたします。このままの格好でご容赦願えますか?」
「……それは……」
「ご容赦できないようであれば、申し付けてください。別のものを呼び、その者にご案内させます」
白紅麗の言葉に戸惑った気配が伝わってくる。白紅麗は、相手の返事を待った。
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