第22話
「妹を大切に思う白紅麗様のお優しい心には感心いたしますが、あれでは白雪姫様のためにもなりません。現に、貴族との縁談を片っ端からぶった切っている状況ですからね」
「……ぶった切って、って……」
「しかも、その理由があなたと離れたくないという、極めて子供じみた理由。これでは、いつまでたってもあなたへの風当たりは弱くなりません。むしろ、どんどん悪くなっていきます」
璃のその言葉に、白紅麗は驚きを隠せなかった。まさか、自分を理由に縁談を断わっていたとは露ほどにも思っていなかったのだ。道理で、最近益々当たりが強くなっているわけだ。
そんな驚愕の様子を見せた白紅麗に、璃は心配になる。
自分のことよりも他人のことを優先してしまう白紅麗が、いつ自分を犠牲にしていなくなってしまうのかと、不安が大きくなる。
守りたいと強く思う。
しかし、まだ自分はその力をつけられていない。
はやく、こんな場所から連れ出してしまいたいのに、それができない状況に歯がゆさを感じつつも、急いではいけないと自分をなだめて、璃は白紅麗に手を伸ばした。
そして、その麦穂色の柔らかな髪を優しく撫でる。
「白紅麗様、大丈夫ですよ。俺が、ちゃんとそばにいますから」
「……璃……。…あの、…………ありがとう」
白紅麗のその一言に、璃は驚いて思わず髪を撫でていた手を止めた白紅麗を凝視してしまった。
そして、思わずその華奢な体を抱きしめてしまった。
「きゃっ!? あ、璃っ!?」
「……もう、本当に……、あなたは俺をときめかせる天才ですね……」
「えっ、な、何……、というか、あの、恥ずかしいから……っ!」
「そんなところも、本当に可愛らしい。好きですよ、白紅麗様」
「……!」
「……はやく、あなたをこんな場所から連れ出してしまいたいぐらいに」
璃の言葉に、白紅麗は何を言えばいいのかわからなくなって黙ってしまう。璃は、ゆっくりと白紅麗から体を離して白紅麗を解放する。
璃は、白紅麗の困った表情をみてしまったと思う。だからこそ、再び白紅麗の髪を優しく撫でた。
「……困らせてしまって、すみません。白紅麗様」
「……ううん、…………ごめんね…璃」
「謝罪は必要ありませんよ。ゆっくり休んでくださいね、白紅麗様」
「……うん、ありがとう、璃」
璃のその言葉に、いつのまにか部屋まで来ていることを自覚した白紅麗は、そう答えた。
優しい微笑みを向けてくれる璃に小さく手を振れば、それに気づいた璃が、嬉しそうに笑みを深めて同じように手を振り返してくれる。
その優しさに、白紅麗の心は確実に璃に傾いていた。
――しかし、それはいっときの夢だったと。
――そう、自覚するに、時間はかからなかった。
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