第21話

白紅麗は出そうになるため息をなんとか飲み込んで白雪姫に言葉をかけた。



「……白雪姫」


「はい、姉様!」



 自分の呼びかけに嬉々として答えてくる妹に、白紅麗は頭を抱えたくなる。なぜこの対応が貴族相手にできないのか。せめて、もう少し上手く立ち回ってくれたのならこちらの心労も減るというのに……。


 白紅麗は白雪姫に向かって言う。



「客人を追い払うような真似をしてはいけないでしょう?」


「あれはわたくしに来た客ではございませんから」


「あなたを妻にと望む方達よ? あなたのお客様だわ」


「それは父上たちが上手く立ち回っていればいいだけの話です。わたくしには関係ございません」


「けれど、それで困らせているのは事実でしょう?」


「こうでもしなければ、姉様と会えない上にお話もできないからです」


「……白雪姫」



 だんだん何を言えばいいのかわからなくなってくる。


 いや、そもそもなぜ自分は妹に対してこんなことをこんこんと説明しているのだろうか。謎である。


 白紅麗はスッと立ち上がった。それをみて、白雪姫が驚いた表情をする。なぜそんな表情をされるのかがわからなくて、白紅麗は首を傾げた。



「? どうしたの?」


「ね、姉様、怒ってしまわれたのですか……?」


「え?」


「わ、わたくしが、聞き分けのない妹だから? 嫌いになってしまわれたのですかっ?」


「ちょ、ちょっと待って。別にそんな風には思っていないわ」


「では、なぜ立ち上がってしまわれたのですか!?」


「……なぜって、私は、ずっとここにいるわけにはいかないもの。部屋へ戻るわ」


「嫌ですっ!」


「……白雪姫」



 ぶんぶんと髪を振り乱して、白雪姫は否定する。


 その様子に白紅麗は困ってしまう。そう言われても、白紅麗にはどうしようもできないことである。


 どうしたものかと考えていると、白雪姫の部屋の外から声がかかる。



「――白紅麗様、お時間です」


「わ、分かったわ」


「姉様、行かないでください!」


「白雪姫、お願いだから、困らせないで……。……ごめんね」


「姉様っ!」



 白雪姫の悲鳴のような懇願を聞きながら、白紅麗は白雪姫の部屋から退室した。


 部屋の外では、璃が待っている。



「……璃、ごめんなさい」


「なぜか白紅麗様が俺に謝るのがわかりませんが、その謝罪は不要です。さ、行きますよ、白紅麗様」


「……ええ」



 璃に誘われて白紅麗はとぼとぼと歩き出す。その様子をみて、璃は小さくため息をついた。



「……白紅麗様、白雪姫様に甘すぎます。あれでは、いつまでたってもあの部屋から出ることはかないませんよ」


「……そう、言われても……」



 白紅麗のその言葉に、璃はさらに言い募る。

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