二章

それは突然の出来事で

第20話

――起きたら、すでにあの小さな竜はすでにいなかった。





 あれから、白紅麗にとって普通の日々を過ごす。何をするにしても、白紅麗には許されないとわかっているために、結局部屋にこもって刺繍をする日々だった。


 春夏秋冬の花をそれぞれに思いつく限り刺繍にしていく。


 春の桜、夏の新緑、秋の紅葉、冬の椿。


 月日が重なるごとにそれらは確実に数を増やしていく。そんな白紅麗を見ているしかできない璃は、悔しさに歯を食いしばりつつも、璃自身ができることをやれる範囲でやるために動く。


 しかし、どれほど頑張っても、白紅麗のために動けることはほとんどなく、代わりに、白紅麗ではなく白雪姫の護衛についてほしいとまで言われる始末。


 それだけはしてはならないと思っていたため、璃はなんとかごまかしの言葉を並べ立てて白紅麗のそばに居続けた。





 あの幼い竜を助けてから、数年後。


 白紅麗は成人を迎えることとなった。


 年も十六になり、嫁がなければならない年になる。しかし、“妖”と言われ続けている白紅麗にそんな縁談が舞い込むはずもなく、代わりに白雪姫への縁談がひっきりなしに続く。


 白雪姫もあと二年後には成人だ。今のうちに婚約者という立場を手に入れておかなければ、白雪姫とともになれないと貴族たちもわかっているため、打診に来る人間が多くなってきている。


 人の出入りが激しいと、白紅麗は自然部屋に引きこもる形になる。


 この容姿は、基本的に誰が見ても否定的だ。そのため、白紅麗もわざわざ姿を晒すようなことはしないようにと部屋に引きこもってしまうことが多かった。


 それに不満を漏らすのはもちろん白雪姫だ。白紅麗が部屋にこもって仕舞えばその分白雪姫は白紅麗と会う機会が格段になくなる。今までもそれほどに多くなかったにもかかわらずそれがさらに減ってしまうとなれば、白雪姫の機嫌もだんだんと悪くなっていく。


 すると、白雪姫に会いにきている貴族たちは白雪姫のその態度に困惑する者や、逆に怒ってしまうものが出て来る。


 そうなると困るのはかなどめ家だ。


 一応貴族という立場にぶら下がっているだけの京家が自分たちよりもはるか上位の家の人間を、追い払っているような形になってしまう。


 これではいつ家が取り潰されるかわかったものではない。そのため、両親が考えたのは、白紅麗を定期的に白雪姫に合わせるということだった。


 突然部屋に突撃してきた両親に白紅麗は驚きを隠せなかったけれど、突然に白雪姫と定期的に会えという命令を下されて理由を聞く事もできないままに白紅麗はそれに従うしかなかった。


 しかし、それは白雪姫にあったことで理由が判明する。

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