第18話
寒さのため、彼女は体を小さくまるめようとする。それに慌てて、人影はロシュを呼ぶ。そして、ロシュに体を温めてあげてくれと告げれば、ロシュはこくんと頷いてもぞもぞと白紅麗のお腹の方に回り込んでそこにピタッとくっつく。
と、ロシュの体が淡く赤い光を纏った。
しばらくその場でじっとしていると、白紅麗の身体を震えが収まっていく。それを確認した人影は、眠っている白紅麗の腕をとって持ち上げる。
そっと袖を捲りあげれば、そこには血の滲んだ手ぬぐいが無造作に巻かれている。
言葉を失う。
ぱっとロシュを見れば、ロシュは今にも泣き出しそうな瞳で人影を見上げていた。
そんなロシュを見て、人影は困ったように微笑む。
「……お前を責めようとは思っていないよ、ロシュ。人間に驚いたんだろう?」
「…………」
「大丈夫だ。……とりあえず、出来る限りこの傷は癒していこうか」
そう言って、人影は白紅麗の腕をじっと見つめて思案する。
癒すにしても、相当頑張らなければならない。そして、自分自身あまり癒しが得意ではないという欠点。
思わず、うーんと考えてしまうけれど、考えても仕方がないと開き直って早速白紅麗に向けて癒しの波動を流し込んでいく。
淡い青の光が人影を纏い、そして、フワフワと飛んでいる光の粒子が白紅麗の腕に吸い込まれるように消えていく。
その神秘的な現象に、ロシュは瞳をキラキラとさせてその光景をじっと見つめていた。
どのくらいの長い時間、それを行なっていたのだろう。気づけば空がかすかに白み始めている。ロシュもうとうととしており、眠たそうだ。
白紅麗の両手を取り、治療を行なっていた人影はとりあえず出来る限りの事はしたという感じで、ため息をつく。
その大きなため息を聞いて、ロシュはくっと頭を人影に向ける。
「……完治は流石にできなかった。
「……!」
その言葉に、ロシュは頭をぶんぶんと左右に振る。
その様子に微笑みながら、人影の彼は白紅麗の手をゆっくりと離した。
えぐるような傷跡はすでになくなり、かすかに引っかき傷のような跡がその腕に残っているのみになっている。
病的に白い肌を見つめながら、彼はじっと白紅麗を見つめた。ロシュがこてん、と首をかしげる仕草をする。
それに、彼が答える。
「……彼女は、大丈夫なのだろうか……」
そんな疑問を持つ。しかし、干渉するのは良くないとわかってもいるため、彼は首を左右に振ってその考えを振り払った。
「いや、なんでもないよ、ロシュ。…………さ、帰ろうか、ロシュ。我たちの場所へ」
そう促して、彼はロシュを抱き上げるために腕を伸ばす。しかし、ロシュがぶんぶんと首を振って拒絶する。
「ロシュ、だが……」
「……!」
「……気持ちはわかる。だが、ためなんだよ、ロシュ」
彼の言葉に、ロシュは悲しそうに瞳揺らす。それを見て、彼も少しだけ苦しい気持ちになる。
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