第17話



 風が吹く。その風の中に、自分を呼ぶ声が聞こえた気がして、顔を上げる。


 かすかに聞こえてくるその声は、自分を呼んでいるのだ。


 そろりと、眠っている彼女のそばから離れる。起きる気配はない。無言でいなくなってしまうと、彼女は怒るだろうかと少しか考えたけれど、それでもここに留まる方が危険であると理解しているため、そろりそろりと音を立てないように抜け出し、そして襖の前まで行ってから“思念”を飛ばす。


 しばらくしてから、襖に人影が映る。そして、すっと静かな音を立てて開いた。



「ロシュ……、お前は本当に……」



 現れたその人影に、ロシュ――白紅麗が助けた竜は、おどおどとした表情でひたすらに頭を下げていた。


 その様子を見て、人影は全くというつぶやきとため息を吐く。ロシュに手を伸ばして抱き上げようとした時、彼が傷だらけなのを自覚し、そして、それが治療されていることに気づく。



「……ロシュ、その傷」


「…………」



 幼竜のロシュはまだ声を出して話すことのできないため、“思念”を飛ばしてあったことを自分の目の前にいる人影に伝える。


 その話を聞いて、苦い顔をする相手に、それよりもと、先ほどよりも“思念”を大きくして、ロシュは、たしたしと布団に近づいてその前足で布団の中を指す。



「? なんだ、ロシュ?」


「…! …………!」


「……なるほど、お前のその怪我の治療をしてくれたのは、その女の子ということか?」


「!」



 的確に“思念”を読み取ってくれる人影に、ロシュは嬉しくてその尻尾をばっしんばっしんと畳に叩きつける。



「ちょ、待てロシュ! そんなに音を出したら……っ!」


「……ん、……?」


「……っ!!」



 聞こえていたかすかな声に、人影もロシュもぴきんと体を固まらせてしまう。しかし、かすかな声を出した彼女はそのまますぅ、と再び眠りに落ちる。


 それに安堵して思わず大きく息を吐いてしまった。



「……ロシュ、興奮するのはいいが、場所を弁えてくれ」


「…………」



 明らかにしゅーんと落ち込んだロシュを見て人影はそれにかすかに笑う。


 そして、ロシュと同じように布団で眠っている彼女に近づいた。


 麦穂色の長い髪を軽く一つに括っているのが分かる。薄い色素のその髪は、ここの人間にしては珍しい色だなと人影は思った。



 ――それが、白紅麗に対する第一印象。



 人影はゆっくりと眠っている彼女の掛布を外していく。寒さのためか、体を震えさせた様子を見て、少し手が止まる。が、それでは確認することできないと思い、思い切って掛布を外した。


 上半身の部分だけを外して下半身はそのままにする。

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