第16話

竜は不思議そうに白紅麗を見つめる。


 それに、白紅麗はふっと微笑みを作って竜に向かって語りかける。



「身体が冷えるといけないと思うから。だから、使って?」



 そう言って、白紅麗は再び立ち上がり、自分も眠る準備をする。


 布団を引っ張り出して、畳の上に敷く。衣を寝巻き用のものに着替えようとして、腕に痛みを感じる。


 流石にこのままにしておくわけにはいかないかもしれないと思い、白紅麗はぐるりと部屋を見回して、結局竜のところへと視線を固定させる。


 簡単に裂けそうななのはあれくらいだというのを思い出し、しかしせっかくかけてあげたものを取り上げるような真似をしてしまうことに後ろめたさがある。少しだけ考えて、やっぱりやめようと思って竜から視線を逸らした時、ごそりと竜が動き、そして自分の体にかけてある布を咥えた。そのままずるずると引きずるようにして白紅麗のそばに来る。


 むいっ、と咥えているものを差し出すようにしているその姿を見て、白紅麗は疑問を投げかける。



「……もしかして、使わせてくれるの?」



 そう疑問を口にすれば、竜はコクリと首を縦にふる。


 その竜の行動に驚きながら、それでも白紅麗はありがとうと小さくつぶやいて、竜から手ぬぐいを受け取った。


 手に持ったそれを縦に裂いていき、適当な幅と長さにしていく。そしてそれを、自分の腕にぐるぐると巻いていく。


 白紅麗のその行動をじっと見つめている竜の視線に気づいて、白紅麗は竜に向かって勤めて笑顔を向けた。


 一通りのその作業が終わって一息つくと、竜も安心したのか、ぽてぽてと、もともと自分がいた場所に戻ろうとする。


 それを見て白紅麗は思わず声をかけた。



「あっ、まって」


「?」


「こっちにおいで。一緒に寝よう?」



 くいくいと手招きをして、白紅麗は竜を自分の布団に誘う。竜は、ピシリと固まった。



「?」



 どうしたのだろうと思ったけれど、その場からピクリとも動かなくなってしまった竜に白紅麗は近づいていき、その腕に抱える。


 ふわふわとした毛が動くたびに揺れるのを見つめながら、白紅麗は布団の中に潜り込む。


 竜は慌てたように出て行こうとしたけれど、布団から出て寒かったのか、ぷるりと体を震わせて、そのまま布団の中に戻ってきた。


 その様子に微笑みが隠せなくて、白紅麗は心の底から笑みを浮かべた。



「ほら、寒いから。ね? おいで」


「キュ、キュゥゥ……」



 なんとも言えない声を出して、竜は出来る限り小さくなるようにと思ったのか、丸くなった。


 そんな気遣いをしてくれなくてもいいと思ったけれど、それでもそれで竜の気がすむならと思い、白紅麗は竜から掛布が落ちないようにして、そのまま自分も眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る